テレビの画面は、なぜ16:9なのか ― 映画とテレビの「間」をとった妥協の最適解
16:9は約1.78。黄金比(約1.618)ではありません。この比率は1980年代、横長の映画と4:3のテレビ番組を、どちらもできるだけ無駄なく映すために選ばれました。その「ちょうどよさ」を数字で確かめます。
この記事の要点
- 16 : 9(約1.78 : 1)は黄金比(約1.618 : 1)ではない。テレビと映画、両方の映像を映すために「間」をとった比率。
- 4 : 3と2.35 : 1の長方形を同じ面積で重ねると、外枠も共通部分も約1.77 : 1になる。16 : 9はこの値に近い、覚えやすい比。
- 16 : 9の画面に4 : 3を映すと画面の75%、2.35 : 1を映すと約75.7%を使う。どちらを映しても、失う面積がほぼ同じになる。
1980年代、画面の形は決まっていなかった
ブラウン管テレビの時代、画面の縦横比は4 : 3(約1.33 : 1)が標準でした。一方、映画は1950年代から横長の画面が広まり、1.85 : 1や2.35 : 1など、いくつもの比率が使われていました。
次世代の高精細テレビ(HDTV)を作るにあたって、画面をどんな形にするかは大きな問題でした。テレビ番組も映画も、どちらもなるべく無駄なく映したい。そこで、米国映画テレビ技術者協会(SMPTE)の作業部会にいた技術者カーンズ・パワーズが、1984年ごろに提案したとされるのが16 : 9です。
長方形を重ねると見えてくる「1.77」
考え方はシンプルです。当時使われていた画面の形を、同じ面積の長方形にそろえて、中心を重ねます。上の図は、いちばん縦長の4 : 3と、いちばん横長の2.35 : 1を重ねたものです。
すると、全体を囲む外枠も、両方に共通する内側の部分も、同じ比率になります。その値は、両端の比率を掛け合わせて平方根をとったもの(幾何平均)です。
16 : 9は、4 : 3をそのまま2乗した比(4² : 3²)でもあり、覚えやすく扱いやすい数字です。外枠と共通部分が同じ形になるということは、この比率の画面なら、縦長の映像も横長の映像も、ほぼ同じ「割合」で収められるということです。
どちらを映しても、失うものが同じ
16 : 9の画面に4 : 3の番組を映すと、左右に黒い帯が出て、使うのは画面の75%。2.35 : 1の映画を映すと、上下に帯が出て、使うのは約75.7%。両極端の映像のどちらを映しても、画面の損失がほぼ同じ約4分の1になります。
もし画面を4 : 3に寄せれば映画の帯が太くなり、2.35 : 1に寄せればテレビ番組の帯が太くなります。16 : 9は、どちらかを優遇するのではなく、両方の不満を同じ大きさにそろえた「妥協の最適解」なのです。
世界の標準へ
16 : 9はその後、HDTVの国際規格ITU-R BT.709に採用され、世界共通の画面比になりました。日本でNHKが開発したハイビジョンも、当初は5 : 3(約1.67 : 1)の画面で研究されていたとされますが、国際的な規格統一の流れのなかで16 : 9になりました。
家庭に一気に広がったきっかけは、地上デジタル放送への移行です。2003年12月に東京・大阪・名古屋で始まり、2011年7月24日にアナログ放送が終了しました(岩手・宮城・福島は2012年3月31日)。これを境に、テレビの画面は16 : 9が当たり前になりました。
俗説チェック:16 : 9は黄金比に近い?
「横長で見やすい画面は黄金比」と説明されることがありますが、16 : 9は黄金比から導かれたものではなく、既存の映像の形の「間をとる」という、まったく別の考え方から生まれました。ちなみに、パソコンのディスプレイで使われてきた16 : 10(1.6 : 1)のほうが、値としては黄金比に近くなります。
黄金比研究所の見立て
16 : 9は、何かを「最も美しく」見せるための比率ではなく、性質の違う二つのものを、どちらも同じくらい無駄なく受け止めるための比率です。最適なバランスとは、ひとつの理想に合わせることだけではなく、両端のあいだで損失を均等にすることでもある。16 : 9は、そのことを画面の形で示しています。
出典・参考資料
- 16:9 aspect ratioWikipedia(英語版)
- Recommendation ITU-R BT.709ITU
- ハイビジョンWikipedia(日本語版)
- 日本の地上デジタルテレビ放送Wikipedia(日本語版)