黄金比研究所Golden Ratio Lab
3:2 完全五度(純正)
もうひとつの最適比

1オクターブは、なぜ12音なのか ― 3:2の和音が決めた12という数

ピアノの1オクターブには12個の鍵が並びます。この12という数は、いちばん澄んで響く和音の振動数比3:2を、オクターブの繰り返しの中に、いちばん少ない手数で押し込んだ結果でした。黄金比は出てきません。

2026年9月20日文・黄金比研究所編集部

1オクターブ(1200セント)のどこに音があるか細い目盛=12等分(平均律) ▼=振動数の比がきれいな音(純正)03004007001200セント短三度 6 : 5 = 315.641セント長三度 5 : 4 = 386.314セント完全五度 3 : 2701.955セント平均律の音程は、純正からどれだけずれるか(半音=100セント。上が高い側、下が低い側)0 = 純正と同じ完全五度−1.955長三度+13.686短三度−15.641図:黄金比研究所
1オクターブ1200セントの中で、12等分の目盛と純正な比はどれだけずれるか。五度はほぼ一致し、三度は大きく離れる。

この記事の要点

  • オクターブを別にすれば、最も安定して響く和音は、二つの音の振動数がちょうど3:2になる「完全五度」です。
  • 1オクターブを12等分すると、この3:2を1.955セント(半音の約50分の1)の誤差で再現できます。12は、それができる最初の実用的な分割数です。
  • ただし12等分は万能ではありません。長三度は13.686セントずれたままです。12という数は最善ではなく、折り合いの結果です。

比率の正体 ― 3:2という「完全五度」

ドとソ、ラとミのように、音階を数えて五つ目にあたる二つの音の関係を「完全五度」と呼びます。この二つの音の振動数は、ほぼきれいな3:2になります。

弦楽器で考えると分かりやすくなります。弦を押さえて長さを3分の2にすると、音の高さは1.5倍になります。国際規格ISO 16が定める基準の高さ、ラ=440ヘルツから数えると、その上の完全五度のミは、比がちょうど3:2なら660ヘルツになります。

完全五度 = 3 : 2 = 1.5倍1オクターブは2 : 1、つまり2倍。この二つが音階の骨格になります。

なぜ3:2は濁らずに響くのか

楽器の音は、一つの高さだけで鳴っているわけではありません。基本の振動数の2倍、3倍、4倍……という「倍音」が同時に鳴っています。

基準の音の倍音は f、2f、3f、4f、5f、6f と並びます。3:2上の音の倍音は 1.5f、3f、4.5f、6f です。比が正確に3:2なら、3f と 6f が重なります。重なった倍音は、互いに邪魔をしにくくなります。

音響学者のプロンプとレヴェルトは1965年、二つの純音の協和感は振動数の比そのものではなく、二つの音の隔たりで決まると報告しました。隔たりが聴覚の「臨界帯域」の約4分の1のときに最も濁って聞こえ、臨界帯域を超えると濁りは消える、という内容です。倍音を持つ実際の楽器の音では、比が単純なほど、倍音同士が「ぴたりと重なる」か「十分に離れる」かのどちらかになります。濁りを生む中途半端な近さが減るわけです。これが3:2の澄んだ響きの仕組みとされています。

「比が単純だから美しい」のではありません。「比が単純だと、濁りを生む中途半端な隔たりが生じにくい」という順序です。

12という数は、どこから出てくるのか

ここで問題が起こります。完全五度を積み上げていっても、いつまでもオクターブの位置に戻ってこないのです。

五度を12回積むと、1.5の12乗で129.746倍。オクターブ7つ分は2の7乗で128倍。近いのに、一致しません。この差は「ピタゴラスコンマ」と呼ばれ、23.460セント、半音の4分の1弱にあたります。

(3/2)12 ÷ 27 = 531441 ÷ 524288 = 1.013643セントに直すと 1200 × log₂1.013643 = 23.460セント

これは偶然のずれではありません。3:2がオクターブの何分の一にあたるかを計算すると、log₂1.5 = 0.5849625…という、分数で書ききれない数になるからです。そこで、この数に近い分数を、分母の小さいものから順に探すことになります。

オクターブの分割数五度に当てる段数五度のずれ(セント)
53+18.045
127−1.955
4124+0.484
5331−0.068

41分割や53分割にすれば、さらに正確になります。53分割の五度のずれは0.068セントで、人の耳ではまず聞き分けられません。しかし鍵盤も指板も記譜も、現実的ではなくなります。12は「十分に正確で、いちばん小さい」分割数でした。

12等分が払った代償

五度がほぼ合う代わりに、しわ寄せは三度に来ます。

音程純正の比純正(セント)12平均律(セント)ずれ
完全五度3 : 2701.955700−1.955
長三度5 : 4386.314400+13.686
短三度6 : 5315.641300−15.641

五度のずれは音の高さにすると、ごくわずかです。ラ=440ヘルツの上のミは、純正なら660ヘルツ、12平均律では659.255ヘルツ。差は毎秒0.745ヘルツで、耳には1秒に1回に満たないゆっくりしたうねりとして残る程度です。

いっぽう長三度の13.686セントは、その7倍のずれです。ピアノの長三度は、純正な長三度よりはっきり広く鳴っています。合唱や弦楽四重奏など、音の高さを自分で決められる演奏では、和音の三度を純正側に寄せることがあるとされます。鍵盤楽器にはその自由がありません。

俗説・誤解チェック

バッハの《平均律クラヴィーア曲集》は、12平均律のために書かれた ― という説。

原題は Das Wohltemperirte Clavier、「よく調律された鍵盤楽器」という意味です。ヴェルクマイスターが1691年ごろに広めた「ウェル・テンペラメント(良い調律)」は、五度の狭め方が場所によって異なる調律法を指します。どの調も演奏できますが、調ごとに響きの性格が変わります。すべての調を均一にする12平均律とは別のものです。

バッハが実際にどの調律を使ったかは、分かっていないとされます。2005年にレーマンが、曲集の扉に描かれた飾り模様を調律の指示と読む説を発表しましたが、オドネルらの異論があり、決着していません。

もうひとつ。12平均律の計算は、ヨーロッパだけのものではありません。中国の朱載堉が16世紀末に、オクターブを12等分する数値を示したと記録されています。その時期は1584年の『律学新説』とも、1596年刊の『律呂精義』ともされます。

黄金比研究所の見立て

判定は「もうひとつの最適比」です。黄金比は登場しません。

耳の側の最適解は、3:2という単純な整数比です。倍音が重なり、濁りが減るという物理の理由があります。ところが道具の側には別の要求があります。鍵盤や指板は、音の高さをあらかじめ固定しなければなりません。どの調で弾いても同じように使えてほしい、という要求も加わります。

順序には注意が必要です。12という音の数は、五度を積み重ねる古い音律の中から先に生まれました。オクターブを12等分するという計算は、あとからその12に等間隔の目盛を与えたものです。結果として、12等分は二つの要求を同時に満たす最小の妥協点になっていました。

五度を1.955セントだけ諦める代わりに、12個の音だけですべての調を手に入れる。長三度の13.686セントは、その取り引きの代金です。

最適な比率は、一つに決まるとは限りません。何を固定し、何を諦めるかで、答えは変わります。ドレミの12という数は、その取り引きの跡だと言えます。

出典・参考資料

  1. Tonal Consonance and Critical BandwidthThe Journal of the Acoustical Society of America 38(4), 548-560 (1965)
  2. ISO 16:1975 Acoustics - Standard tuning frequency (Standard musical pitch)International Organization for Standardization
  3. Zhu ZaiyuEncyclopaedia Britannica
  4. The Ongoing Quest for Bach's TemperamentThe Juilliard Journal