黄金比研究所Golden Ratio Lab
1 : √2 白銀比(ルート2長方形)
もうひとつの最適比

A4の紙は、なぜ半分に切っても同じ形なのか ― 1:√2「白銀比」の設計思想

A4を半分にするとA5、さらに半分でA6。形は少しも変わりません。その秘密は縦横比1:√2(約1.414)。18世紀の手紙から国際規格までたどり、この比率が「紙の最適解」である理由を確かめます。

2026年9月11日文・黄金比研究所編集部

A1A2A3A4A5A6A6A0(841×1189 mm、面積1 m²)を半分ずつに半分に切っても、同じ形のまま長辺 L・短辺 S の紙を半分に切ると、新しい紙は 長辺 S・短辺 L/2 になる。L : S = S : L/2L² = 2S²L : S = √2 : 1√2 = 1.41421… この条件を満たす長方形は、この形だけコピー機の倍率に現れる√2A4 → A3(拡大)141%A4 → A5(縮小)71%図:黄金比研究所
A0を半分ずつにしていくと、どのサイズも同じ1:√2の形になる

この記事の要点

  • A判の紙の縦横比は1 : √2(約1 : 1.414)。半分に切っても同じ形になる長方形は、この比率しかない。
  • だからA4→A3の拡大は141%、A4→A5の縮小は71%。コピー機の倍率にも√2が刻まれている。
  • 日本では1 : √2を「白銀比」と呼ぶことが多いが、海外で silver ratio といえば1+√2を指すので注意。

半分に切っても形が変わらない、ただ一つの比率

A4の紙を長い辺の真ん中で切ると、A5になります。A5を半分にするとA6。どこまで切っても、紙の形(縦横の比)は同じです。これは偶然ではなく、比率を1 : √2に決めたからこそ起きることです。

長辺をL、短辺をSとします。長辺を半分に切ると、新しい紙は長辺がS、短辺がL/2になります。元の紙と同じ形であるための条件は、次のとおりです。

L : S = S : L/2 → L² = 2S² → L : S = √2 : 1√2 = 1.41421356…。この条件を満たす長方形は、この形だけです。

「半分にしても同じ形」という性質を求めると、答えは1 : √2の一つに決まります。好みやデザインで選ばれた比率ではなく、条件から計算で導かれる比率なのです。

A0は「面積1平方メートル」から始まる

A判の出発点は、A0の面積をちょうど1 m²にしたことです。縦横比が1 : √2で面積が1 m²の長方形は、841 mm × 1189 mm。これを半分にしていくとA1、A2、A3…と続き、4回半分にしたものがA4(210 mm × 297 mm)です。

サイズ寸法(mm)A0に対する面積
A0841 × 11891
A1594 × 8411/2
A2420 × 5941/4
A3297 × 4201/8
A4210 × 2971/16
A5148 × 2101/32
A6105 × 1481/64

面積が半分ずつになるので、A4の面積は1/16 m²です。たとえば1 m²あたり64 gの紙なら、A4一枚は約4 g。紙の重さもすぐに計算できます。

コピー機の「141%」と「71%」の正体

コピー機でA4をA3に拡大すると141%、A4をA5に縮小すると71%。この数字は√2(1.414…)と、その逆数(0.707…)です。形が同じなので、拡大しても縮小しても余白が出ず、ぴったり収まります。

もし紙の比率がばらばらだったら、拡大するたびに上下か左右に余白が出るか、どこかが切れてしまいます。同じ形のまま、面積だけが2倍・半分になることこそ、1 : √2のいちばんの実用価値です。大きな紙から小さな紙を切り出すときに切れ端が出ないのも、同じ理由です。

18世紀の手紙から、国際規格へ

この発想は古く、1786年、ドイツの物理学者リヒテンベルクが知人への手紙で、1 : √2の紙の便利さを書き残しています。1798年には、フランスの印紙に関する法律が、1 : √2の比率をもつ紙の判型を定めました。

本格的に広まったのは1922年です。技術者ポルストマンの提案をもとに、ドイツ規格DIN 476が制定されました。その後、各国が採用し、1975年に国際規格ISO 216になっています。日本でも1929年に商工省が「紙ノ仕上寸法」を定め、現在はJIS P 0138に引き継がれています。

日本のB判は、世界のB判と違う

日本で使うB5(182 mm × 257 mm)は、国際規格のB5(176 mm × 250 mm)より少し大きめです。日本のB判は、面積がA判の1.5倍になるように決められているためです。JIS B0は1030 mm × 1456 mm、面積は1.5 m²。一方、国際規格のB0は1000 mm × 1414 mm、面積は√2 m²です。

どちらも縦横比は1 : √2なので、B判の中でも半分にすれば同じ形が続きます。日本のB判は、当時広く使われていた「四六判」に対応するように独自に定められたと説明されています(江戸時代の美濃判に由来するという説もあります)。A4とB4を行き来するときのコピー倍率122%と81%は、√1.5(≈1.22)とその逆数で、この「1.5倍」の関係から来ています。

用語チェック:「白銀比」はどっち?

「白銀比」という言葉は、日本と海外で指す数が違います。

日本では1 : √2を「白銀比」や「大和比」と呼ぶことがよくあります。一方、海外の数学で silver ratio(白銀比)といえば、1+√2(約2.414)という別の数を指すのが一般的です。資料を読むときは、どちらの意味かに注意が必要です。黄金比研究所では、1 : √2を「白銀比(ルート2長方形)」と表記します。

もうひとつ気をつけたいのが、「東京スカイツリーは白銀比でできている」という話です。展望台と全体の高さの比が√2に近いという説がありますが、634 mという高さは、世界一の高さを目指して計画を見直した際に、旧国名「武蔵(むさし)」の語呂合わせも考慮して決められたものです。√2を狙って設計したという資料は見当たりません。

日本で√2が実際に使われてきた確かな例は、大工道具の曲尺(さしがね)です。裏側の「角目(かくめ)」の目盛りは、表の目盛りの約1.414倍。丸太の直径を角目で測ると、その丸太から取れる正方形の角材の一辺がわかります。正方形の対角線は、一辺の√2倍だからです。

黄金比研究所の見立て

1 : √2は黄金比ではありません。けれど「半分にしても形が変わらない」という一つの条件から、ただ一つに決まる比率です。見た目の美しさよりも、拡大・縮小・切り出しのしやすさという働きを優先した結果が、世界中の机の上にある紙の形になりました。

黄金比(1 : 1.618)が「正方形を切り取っても同じ形が残る」比率だとすれば、白銀比(1 : √2)は「半分に分けても同じ形が残る」比率です。どちらも、分けても形が保たれることが最適さの核心にあります。

出典・参考資料

  1. International standard paper sizes(Markus Kuhn)University of Cambridge
  2. Lichtenberg's letter to Johann Beckmann (1786)University of Cambridge(M. Kuhn)
  3. ISO 216:2007 Writing paper and certain classes of printed matter — Trimmed sizes — A and B seriesISO
  4. 紙の規格寸法(A判・B判)の由来日本印刷技術協会(JAGAT)
  5. JIS P 0138:1998 紙加工仕上寸法日本産業規格
  6. 東京スカイツリーについて(スペック)東京スカイツリー公式サイト
  7. 曲尺(さしがね)の使い方MISUMI 技術情報