商談で売れる人は、なぜ4割しか話さないのか ― 43:57という会話の配分
「話す43:聞く57」。売れる商談の会話の配分として、よく引かれる数字です。黄金比ではありません。同じ会社が2025年に326,000件を分析し直すと、受注57%・失注62%という別の姿が見えてきました。5ポイントの差が何なのかを確かめます。
この記事の要点
- 売れる商談の会話は「話す43:聞く57」とよく言われます。黄金比とは関係ありません。2016年に公開された分析の数字です。
- 同じ会社が2025年に出し直した分析では、受注した商談の営業側の発話は57%、失注は62%。全体の平均は60%でした。「43」は今の平均値ではありません。
- 受注と失注の差は5ポイント。60分の商談なら約3分ぶんです。喋る量そのものより、その3分を相手に渡す作り方のほうが再現しやすいと言えます。
「43 : 57」という数字の出どころ
商談の会話について、よく引かれる比率があります。営業側が話すのが43%、聞くのが57%。この数字は、商談を録音して解析する米Gong社が2016年に公開した分析に由来します。当時、成績の良いB2Bの商談を分けた結果として示されたものでした。
黄金比(1 : 1.618…)とは関係がありません。1.618を100に当てはめると38 : 62になり、43 : 57とは別の配分です。
2025年の数字では、少し動いている
同じ会社は2025年、10分以上続いた商談326,000件を対象に分析を出し直しています。そこでの数字は次のとおりです。商談全体の平均は、営業側の発話が60%。受注した案件は57%、失注した案件は62%でした。
つまり「43%まで抑えるのが正解」という読み方は、今のデータには当てはまりません。実際に差がついているのは57%と62%のあいだ、5ポイントぶんです。
この分析はさらに、比率の値そのものより安定していることを重く見ています。成績の良い担当者は、相手や案件が変わっても発話の割合がぶれない、という指摘です。
5ポイントは、時間にすると3分
60分の商談で考えます。発話57%なら34分、62%なら37分。差は約3分です。
1時間の打ち合わせのうち、3分を相手に返せるかどうか。勝ち負けを分けているのは大演説ではなく、この程度の配分だということになります。
「質問を増やす」では解決しない
では質問を増やせばよいかというと、同じ分析はそう単純ではないことも示しています。受注した商談の質問数は1件あたり15〜16問、失注した商談は約20問でした。多く聞けば良いわけではありません。
ほかに、次のような傾向も報告されています。
- 自社紹介に使う時間は2分ほどが良く、それを超えると受注率が落ちる
- 成績上位の担当者は、価格の話を商談の40〜49分あたりで持ち出す
- 受注した商談では、営業側が一人で喋り続ける時間が短い
配分は、意思ではなく仕掛けで決まる
ここまでの数字が示すのは、「喋りすぎないよう気をつける」という心がけの話ではありません。3分ぶんの配分を、毎回同じように再現できるかどうかの話です。
会話の主導権が相手に移る瞬間は、たいてい決まっています。金額や条件が動くときです。「この工事を足すといくらか」「人数が10人ならどうなるか」。ここを口頭で説明すれば、営業側の発話は増えます。同じ内容でも、相手が自分で条件を動かせる形にしておけば、その時間は相手のものになります。
比率を目標にするより、比率が自然にそうなる資料を用意するほうが、たぶん続きます。
この数字の限界。いずれも1社(Gong)が自社サービスで録音したB2B商談の分析で、対象は主に英語圏のオンライン商談です。対面が中心の商談や、日本語の会話にそのまま当てはまる保証はありません。発話の割合と受注は同時に観測された関係であり、割合を変えれば受注が増えるという因果を示したものでもありません。
研究所から(お知らせ)。この「相手に条件を動かしてもらう」部分を資料の側に作り込んだ提案スライドを、黄金比研究所のプロデュースで公開します。製品名は「ナットクスライド」。〔発売日・販売ページのURLは公開前に差し替え〕