黄金比研究所Golden Ratio Lab
137.5° 黄金角
黄金比

ひまわりの種は、なぜ137.5°ずつ並ぶのか ― 黄金角が種を「むらなく詰める」理由

ひまわりの種は、一粒ごとに約137.5°回った位置に並んでいます。この「黄金角」は、円を黄金比で分けた角度。なぜこの角度だと種がむらなく詰まるのか。数学と植物学、そして657本を数えた市民調査から確かめます。

2026年9月11日文・黄金比研究所編集部

種を置く角度だけを変えると、並び方はこう変わるn番目の種を「角度 n×θ、中心からの距離 c√n」に置いた場合(各320粒)135°円の3/8。8本のまっすぐな列ができ、すき間だらけ137.3°黄金角より0.2°小さい。らせん状のすき間が出る137.508°黄金角。どこにも偏らず、均一に詰まる図:黄金比研究所(H. Vogel, 1979 のモデルにもとづき作図)
角度を0.2°変えるだけで、すき間の出方が大きく変わる

この記事の要点

  • ひまわりの種は、一粒ごとに約137.5°ずつ回った位置に並ぶ。この角度は、円周を黄金比で分けた「黄金角」。
  • 黄金比は、分数でいちばん近似しにくい数。だから何粒並べても種が同じ方向にそろわず、むらなく均一に詰まる。
  • ただし「すべてのひまわりがフィボナッチ」ではない。657本を調べた市民調査では、らせんの本数の計測値のうち約2割がフィボナッチ以外だった。

黄金角とは、円を黄金比で分けた角度

円周の360°を、長い方と短い方の比が黄金比(φ=1.618…)になるように二つに分けます。長い方は約222.5°、短い方は約137.5°。この短い方の角度が「黄金角」です。

360° ÷ φ² ≈ 137.5078°φ(ファイ)=(1+√5)÷ 2 = 1.6180339…。360° ÷ φ ≈ 222.5° で、残りの角度が黄金角です。

ひまわりの花の部分(頭花)では、小さな花(小花)が一つずつ作られ、それぞれがひとつ前の小花から約137.5°回った位置に配置されます。この小花が、やがて種になります。1979年、H. ヴォーゲルは、この並び方をとても簡単な式で再現できることを示しました。

n 番目の種:角度 = n × 137.508° 中心からの距離 = c × √nH. Vogel, “A better way to construct the sunflower head”, Mathematical Biosciences 44 (1979)

これだけで、見慣れたひまわりの模様が現れます。上の図の右端は、この式で320粒を並べたものです。

なぜ137.5°だと、むらなく詰まるのか

図の左端は、角度を135°にした場合です。135°は円の3/8にあたるので、8粒ごとにぴったり同じ方向へ戻ってしまいます。種は8本のまっすぐな列に並び、列と列のあいだが大きく空きます。

角度を分数で表せる値にすると、分母の数だけ粒を置いたところで、必ず同じ方向に戻ります。分母の大きい分数なら戻るまでの粒数は増えますが、いずれは列ができて、すき間が生まれます。

それなら、どんな分数でも近づきにくい角度を選べばよいことになります。そこで登場するのが黄金比です。黄金比を「連分数」という形で書くと、次のようになります。

φ = 1 + 1/(1 + 1/(1 + 1/(1 + …)))すべての段が「1」。これは、分数による近似がいちばんゆっくりしか進まないことを意味します。

すべての段が1になる連分数は、分数でいちばん近似しにくい数、いわば「最も無理数らしい数」です。そのため黄金角で種を置いていくと、何粒並べても前の種と同じ方向に重なることがなく、新しい種はいつも「まだ空いている方向」に入ります。結果として、円の中が均一に埋まっていきます。

図の中央は137.3°です。黄金角との差はわずか0.2°ですが、それだけでらせん状の筋が現れ、すき間ができはじめます。137.5°は「だいたいこのあたり」ではなく、かなり鋭く選ばれた最適値なのです。

らせんの本数がフィボナッチ数になる理由

ひまわりをよく見ると、右回りと左回りのらせんが見えます。数えてみると、34本と55本、55本と89本のように、隣り合うフィボナッチ数(1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89…)の組になっていることがよくあります。

これも黄金角から出てくる性質です。黄金比にいちばん近い分数を順に並べると、1/1、2/1、3/2、5/3、8/5、13/8…と、隣り合うフィボナッチ数の比になります。目に見えるらせんは、この近似の「ずれ」が作る筋なので、本数もフィボナッチ数になりやすいのです。

植物は、黄金角を「知っている」わけではない

植物が角度を測っているわけではありません。ポイントは、「新しい芽は、すでにある芽からいちばん遠いところにできる」という単純なルールです。19世紀の植物学者ホフマイスターが、観察から見いだした経験則です。

1992年、物理学者のドゥアディとクデールは、このルールだけで黄金角が生まれることを実験で示しました。シリコーン油を入れた皿の中心に、磁性流体のしずくを一定の間隔で落とします。垂直な磁場の中で、しずくは互いに反発し合いながら、磁場の強い外側へ移動していきます。すると条件がそろったとき、黄金角のらせんが自然にできあがりました。

植物の中でその役割を担う物質もわかってきました。2003年にネイチャー誌に発表された研究は、植物ホルモンのオーキシンが、すでにある芽に集められてしまうことを示唆しました。そのためオーキシンは、既存の芽から十分に離れた場所でしか濃くならず、そこに次の芽ができます。「前の芽から離れた場所に作る」という局所的なルールの繰り返しが、結果として黄金角に行き着く。これが現在の理解です。

俗説チェック:すべてのひまわりがフィボナッチ?

「ひまわりのらせんの本数は、必ずフィボナッチ数」という言い方は、言いすぎです。

アラン・チューリングが晩年に植物の葉序(葉や種の並び方)を研究していたことにちなむ市民科学プロジェクト「Turing's Sunflowers」では、一般の参加者が育てたひまわり657本のらせんが数えられました。2016年に英国王立協会の学術誌で発表された結果は、次のとおりです。

分類らせん本数の計測値(信頼度の高い768件中)割合
らせんの本数がフィボナッチ数56573.6%
あらかじめ定めた「フィボナッチの仲間」の型まで含める63282.3%
フィボナッチ構造が見られない136約18%

信頼度の高いらせん本数の計測値768件のうち、約8割がフィボナッチ構造を示し、約2割は示しませんでした。研究チームは、フィボナッチ数より1少ない本数のほうが、1多い本数よりも有意に多く見られたことも報告しています。黄金角は「強い傾向」であって、「例外のない法則」ではないのです。

黄金比研究所の見立て

ひまわりの黄金角は、黄金比が「美しいから」現れるのではありません。限られた場所に、できるだけ多くの種をむらなく詰めるというはっきりした働きのために現れる、数少ない確かな実例です。そして植物がその答えにたどり着く方法は、角度の計算ではなく、「前の芽から離れる」という単純なルールでした。

最適なバランスは、設計図からではなく、ルールの繰り返しから生まれることがある。ひまわりは、そのことを教えてくれます。

出典・参考資料

  1. H. Vogel "A better way to construct the sunflower head", Mathematical Biosciences 44 (1979)Elsevier
  2. J. Swinton & E. Ochu "Novel Fibonacci and non-Fibonacci structure in the sunflower: results of a citizen science experiment", Royal Society Open Science 3 (2016)The Royal Society
  3. S. Douady & Y. Couder "Phyllotaxis as a physical self-organized growth process", Physical Review Letters 68 (1992)American Physical Society
  4. D. Reinhardt et al. "Regulation of phyllotaxis by polar auxin transport", Nature 426 (2003)Nature
  5. S. Douady & Y. Couder "Phyllotaxis as a dynamical self organizing process"(ホフマイスターの規則の解説を含む), Journal of Theoretical Biology (1996)Elsevier
  6. The Golden Ratio(Mathematical Biology, J. Chasnov)LibreTexts