黄金比研究所Golden Ratio Lab
BPM 60 眠りの音楽=BPM60説
俗説検証

寝る前の音楽は、BPM60でなければいけないのか ― テンポより「静けさ」で組む20分

眠る前の音楽は「心拍に近いBPM60〜80がよい」とよく言われます。睡眠用プレイリスト約22万曲の分析では、テンポより音量とエネルギーの差が大きく出ました。その傾向をもとに、歌を減らして静かに終える20分を組みました。

2026年10月16日文・黄金比研究所編集部

寝る前の20分:テンポより「静けさ」で下げる縦軸=エネルギー(編集部による1〜5の評価。図は4まで)。棒の上の数字はBPMのデータベース値(目安)切り替え(歌あり)減速(歌なし)着地(拍なし)12340246810121416182022経過時間(分)エネルギー1. ひこうき雲BPM 842. lovelyBPM 1153. あの夏へBPM 1584. samanBPM 1095. ジムノペディBPM 736. An EndingBPM 9420:53終了図:黄金比研究所
寝る前の20分プレイリスト(全6曲・20分53秒)。歌あり→ピアノ→拍のない曲の順にエネルギーを下げ、最後は音を止める。BPMはデータベース値で、テンポは上下に揺れる

この記事の要点

  • 睡眠用プレイリスト約22万曲の分析では、一般の曲との差はテンポより音量とエネルギーで大きく出ました。
  • 「BPM60〜80がよい」は傾向としては外れていませんが、睡眠との関係で確かめられた数字ではありません。
  • そこで本稿は、歌を減らし、音を静かにし、最後は拍のない曲で終える20分(約21分)を組みました。

このシーンの比率

寝る前の音楽には「心拍に近いBPM60〜80がよい」という説があります。BPMは1分あたりの拍の数です。本稿はこの説を確かめ、そのうえで就寝前の20分を組みます。

配分したのはテンポではなく「静けさ」です。前半の約7分は歌のある曲、中盤の約10分は歌のないピアノ、最後の約4分は拍のはっきりしない曲にしました。時間の比はおよそ3 : 4 : 2です。

406秒 : 581秒 : 266秒 ≒ 3 : 4 : 2歌あり:歌なし:拍なし。合計1,253秒(20分53秒)

この3段の配分は研究の数字ではなく、編集部の設計上の選択です。根拠に使ったのは、次の節で紹介する研究の「傾向」です。

なぜこの配分か

手がかりの一つ目は、2023年にPLOS ONEに載った分析です。Spotifyで睡眠向けとされる985個のプレイリスト、計225,626曲の音響特徴を、一般の曲と比べました。

睡眠用の曲は、一般の曲より静かで遅く、歌のない曲や生楽器の曲が多めでした。ただし差の大きさは項目で違います。効果量(差の大きさの目安)は、エネルギーが−1.46、音量が−1.25、テンポが−0.47でした。テンポの差は、ほかの二つの3分の1程度です。

論文は、リラックス用の音楽は60〜80BPMがよいとする従来の説を紹介しつつ、睡眠との関係では確かめられていなかったと書いています。また、曲は6つのグループに分かれ、うち3つは、睡眠用の曲の平均より大きく速く、エネルギーの高い曲でした。人気のポップスも、実際には眠る前に使われています。

「眠る前はBPM60〜80で選ぶ」── 遅めの曲が選ばれやすい傾向はあります。ただ、差がより大きく出たのは音量とエネルギーでした。

二つ目は、テンポと体の反応を測った2006年の研究(Heart誌)です。24人に速さの違う音楽を聴かせると、速い曲ほど呼吸数、心拍、血圧が上がりました。一方、曲の合間の2分の無音では、聴く前の安静時より下がりました。心拍が拍に同期する様子は確かめられていません。

三つ目は効果そのものです。2022年のコクラン・レビューは、不眠のある成人を対象にした13件の試験(1,007人)をまとめました。毎日25〜60分、録音された音楽を聴くと、睡眠の質の点数(PSQI)が改善しました(確実性は中程度)。寝つくまでの時間の短縮は、確実性が低いとされています。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、寝る前のリラクゼーションを睡眠休養感に関わる要素に挙げ、音楽などのリラックス法が寝つきを助ける場合があるとしています(誰にでも効くわけではないとも添えています)。同時に、テレビやラジオをつけたまま寝る習慣が眠りを妨げることがあるとも書いています。だから本稿のリストは、鳴らしっぱなしにせず、終わりを決めます。

プレイリスト(曲順)

全6曲、合計20分53秒(目標20分に対して+4.4%)です。邦楽3曲・洋楽3曲、1973年から2018年の曲を混ぜました。聴き慣れた曲は前半に、初めて聴くかもしれない曲は後半に置いています。BPMは公開データベースの値で、あくまで目安です。

#曲名アーティスト長さBPM(目安)フェーズ・役割
1ひこうき雲荒井由実3:2684切り替え(歌あり):聴き慣れた歌で一日から切り替える
2lovelyビリー・アイリッシュ & カリード3:20115切り替え(歌あり):歌ありの最後。睡眠用リストでよく使われる例
3あの夏へ久石譲4:32158(別録音の値。半分なら79)減速(歌なし・ピアノ):歌が消え、ピアノ中心へ
4samanオーラヴル・アルナルズ2:12109(半分なら約55)減速(歌なし・ピアノ):短く、音数の少ないピアノ
5ジムノペディ 第1番斎藤雅広2:5773(別演奏の値)減速(歌なし・ピアノ):ゆっくり一定の伴奏で減速を締める
6An Ending (Ascent)ブライアン・イーノ4:2694(拍のはっきりしない曲)着地(拍のない音):拍のない音で着地し、そのまま終わる
BPMの値にはばらつきがあります。拍のはっきりしない曲や、テンポが揺れるピアノ曲では、データベースの値が体感の2倍になったり、別の録音の値だったりします。この表の数字をそのまま並べると、BPMの並びは上下に揺れます。テンポの数字で選ばない理由の一つです。

切り替え(0:00〜6:46)

減速(6:46〜16:27)

着地(16:27〜20:53)

曲順の設計図

切り替え(約7分)では、歌のある曲を2曲だけ置きます。いきなり無音に近い音にすると、頭の中で一日の続きが回りがちです。聴き慣れた歌で気持ちを音楽へ移し、そこで歌を終えます。「lovely」は、先の分析で睡眠用リストによく入るポップスとして名前が挙がった曲です。

減速(約10分)は、ピアノ中心の歌のない3曲です。言葉を追わなくてよい音にし、音量の起伏が小さい曲を選びました。最後の「ジムノペディ 第1番」は、ゆっくり一定の伴奏が続く曲です。同じ曲でも演奏者で長さが変わり、ここでは約3分の演奏を選びました。

着地(約4分)は、拍のはっきりしない「An Ending (Ascent)」1曲です。リズムの手がかりをなくし、そのまま無音に入ります。2006年の研究で、無音の2分間で、心拍や呼吸が聴く前の安静時より下がったことを、終わり方の参考にしました。

自分の曲で組むなら

  • 終わりを決める:スリープタイマーを曲の長さ+数分に設定し、リピートは切ります。
  • 歌は前の3分の1まで:歌のある曲は最初の6〜7分に収め、後半は歌のない曲にします。
  • 音量をそろえる:差が大きく出たのは音量とエネルギーです。打楽器が目立つ曲や、途中で盛り上がる曲は外します。
  • BPMは参考程度:60〜90くらいを目安にしつつ、データベースの値は倍・半分の取り違えに注意します。
  • 聴き慣れた曲から:前半は好きで聴き慣れた曲、後半は刺激の少ない曲にします。

音楽は眠りを約束するものではありません。音量は小さめにし、体調に合わせて調整してください。寝つけない日が続くときは、医療機関に相談してください。

黄金比研究所の見立て

「眠る前はBPM60〜80」という説は、方向としては外れていません。睡眠用の曲は、実際に一般の曲より遅めでした。ただ、数字としての根拠は弱く、差がより大きく出たのは音量とエネルギーです。テンポの数字を決め手にするより、静けさを段階的に増やすほうが、研究の傾向に沿っています。

本稿の3 : 4 : 2は、その考え方を20分に落とし込んだ編集部の提案です。黄金比は使っていません。大事なのは比率の細かさより、歌を減らし、拍をなくし、最後に音を止めることです。

出典・参考資料

  1. Exploring the features of music that people fall asleep to (Scarratt, Heggli, Vuust, Jespersen)PLOS ONE, 2023
  2. Music for insomnia in adults (Jespersen et al., Cochrane Database of Systematic Reviews 2022)Cochrane
  3. Cardiovascular, cerebrovascular, and respiratory changes induced by different types of music in musicians and non-musicians (Bernardi, Porta, Sleight)Heart, 2006
  4. 健康づくりのための睡眠ガイド2023厚生労働省
  5. SongBPM(各曲ページ。例:lovely)SongBPM
  6. ひこうき雲(荒井由実)楽曲データKeyTube