採用の面接は、なぜ最初の37%を見送るのか ― 1/eが決める見極めの配分
100人を順に面接して、いちばん良い1人を選びたい。断ったら戻れないなら、最初の37人は見るだけにして、38人目から「それまでの誰より良い最初の1人」を採る。これが最適解です。なぜ37%なのかを解きほぐします。
この記事の要点
- やり直しのきかない選択では、はじめの約37%を「見るだけ」に使い、残りで基準を超えた最初の1人を採るのが最適とされます。
- 37%という数は、ネイピア数 e の逆数 1/e=0.3679… から出てきます。黄金比とは別の出どころです。
- この作戦でも、最良の1人を当てられる確率は約37%です。6割以上は外します。そこが誤解されやすい点です。
「37%」とは、何の割合か
採用の面接を思い浮かべてください。応募者は100人。1人ずつ順に会っていきます。会う順番はくじ引きで決まっていて、良い人が先に来るとはかぎりません。
条件はきびしく決めます。会ったその場で「採る」か「見送る」かを決める。見送った人には二度と戻れない。点数は付けられないけれど、ここまでに会った人のなかで何番目かは分かる。そして、100人のなかのいちばん良い1人を採れたときだけ成功とする。
このとき、最適な作戦の形は決まっています。はじめの何人かを無条件で見送り、そのあとは「それまでの誰よりも良い」と思えた最初の1人を採る。見送った区間は、採用のためではなく、ものさしを作るために使います。
残る問題は「何人見送るか」だけです。100人なら、その答えが37人。全体の37%です。
なぜ37%なのか ― 二つの損が釣り合う点
見送る人数を増やすと損が出ます。減らしても損が出ます。向きが逆なので、どこかに釣り合う点があります。
見送りが短すぎる場合。ものさしがまだ低いところにあります。5人しか見ていなければ、6人目の「まあまあの人」が過去最高に見えてしまいます。その人を採って、あとから来る本命を逃します。
見送りが長すぎる場合。今度は、いちばん良い人が見送り区間に入ってしまう危険が増えます。70人を見送れば、最良の人がその70人のなかにいる確率は70%です。そうなると以後は誰も基準を超えず、最後の1人を押しつけられて終わります。
この釣り合いは式で書けます。n人のうち最初のr人を見送るとき、成功する確率は次のようになります。
人数を大きくしていくと、この式は見送る割合 x を使った x × log(1/x) という形に近づきます。これがいちばん大きくなるのは x = 1/e のとき。そして、そのときの値もまた 1/e です。
数で確かめる
人数ごとに最適な見送り数を計算し直すと、こうなります。
| 候補の人数 | 見送る人数 | 割合 | 成功する確率 |
|---|---|---|---|
| 3人 | 1人 | 33.3% | 50.0% |
| 5人 | 2人 | 40.0% | 43.3% |
| 10人 | 3人 | 30.0% | 39.9% |
| 20人 | 7人 | 35.0% | 38.4% |
| 100人 | 37人 | 37.0% | 37.1% |
| 1000人 | 368人 | 36.8% | 36.8% |
目を引くのは、いちばん右の列が下がりきらないことです。候補が10倍、100倍に増えても、成功する確率は37%あたりで止まります。ふつう、選択肢が増えれば「当てる」のは難しくなります。それが起きません。
もうひとつ、山がなだらかな点も実用上は大切です。100人のとき、見送りを35人にしても40人にしても、成功する確率は36.9〜37.1%の範囲に収まります。37という数を厳密に守る必要はありません。
比べる相手も置いておきます。何も考えずに1人を選べば、当たる確率は1%。半分の50人を見送ってから選ぶと34.9%です。
どこから来た数か
この問題が広く知られるようになったきっかけは、1960年にマーティン・ガードナーが『サイエンティフィック・アメリカン』誌で出題した「グーゴルのゲーム」だとされています。2月号で問題を出し、3月号で解答を示しました。ガードナー自身は、この問題をフォックスとマーニーという2人に帰しています。
学術誌での最初の解は、デニス・リンドリーが1961年に『英国王立統計学会誌 C』へ発表した論文とされます。1963年にはユージン・ディンキンが停止時刻の理論として扱い、1966年にはジョン・ギルバートとフレデリック・モステラーが『米国統計学会誌』に、さまざまな拡張を含む基本的な論文を発表しました。
「秘書問題」という呼び名は、あとから付いたものです。活字では、1964年にチョウ、森口繁一、ロビンス、サミュエルズが発表した論文の表題に現れたものが早い例とされます。
1989年、トーマス・ファーガソンは「秘書問題を解いたのは誰か」という論文でこの経緯を整理しました。そのなかで、相手が紙に書く数字を意地悪に選んでくるゲーム理論版は当時まだ解かれていない、と書いています。この版は、1994年にアレクサンダー・グネディンが解いたとされます。
「37%で最良の人が選べる」は誤解
そうはなりません。この作戦がもたらすのは「約37%の確率で最良の1人を当てられる」ことであって、当てられない確率のほうが高いままです。100回やれば、平均して63回ほど外します。
前提もかなり強いものです。候補の総数をあらかじめ知っていること。順位が付けられること。断ったら戻れないこと。そして、二番目に良い人を採っても価値はゼロと数えること。最後の条件はとくに現実離れしています。採用でも部屋探しでも、二番手は十分に良い選択のはずです。
目的を「最良の1人」から「なるべく上位の人」に変えると、答えの区切りも変わります。期待される順位を最小にする作戦は別に知られています。さきほど名前を挙げた1964年のチョウらの論文が扱ったのが、その問題です。
人が実際にどう振る舞うかも調べられています。ダリル・シールとアムノン・ラポポートが1997年に行った実験では、参加者は最適な作戦よりも早く止める傾向がありました。探し続けること自体に時間の費用があると仮定すると、この早さは説明できるとされています。
黄金比研究所の見立て
ここで、この雑誌としては触れておくべきことがあります。37:63という配分は、黄金比による分割 38.2:61.8 によく似ています。
数字を並べると、1/e=0.3679 に対して 1/φ²=0.3820。差は0.0141で、相対的には約3.8%のずれです。近いことは確かです。
ですが、これは出どころの違う二つの数がたまたま隣り合っただけです。1/e は「早すぎる損」と「遅すぎる損」の釣り合いから出てきます。黄金比は正五角形や連分数から出てきます。知られているかぎり、途中の理屈にも式にも重なるところはありません。似ているという理由でつなげるのは、この雑誌がいちばん避けたい書き方です。判定は「もうひとつの最適比」としました。
使い方として持ち帰るなら、37という数字そのものより「前半は決めない」という構えのほうが効くはずです。部屋を10件見るつもりなら、最初の3件は記録だけを取る。その3件は落とすためではなく、基準を作るために見る。そう決めておくと、2件目で気に入って即決してしまう失敗が減ります。
ただし現実には、断った相手に戻れることも多いはずです。キャンセル待ち、再交渉、次の募集。戻れるなら、見送り区間を長めに取る余地が生まれます。この作戦の37%は、あくまで「一度きり」という条件が生んだ数です。
出典・参考資料
- Who Solved the Secretary Problem?Thomas S. Ferguson, Statistical Science 4(3), 282–289 (1989)
- Dynamic Programming and Decision TheoryD. V. Lindley, Journal of the Royal Statistical Society Series C 10(1), 39–51 (1961)
- Recognizing the Maximum of a SequenceJohn P. Gilbert & Frederick Mosteller, Journal of the American Statistical Association 61(313), 35–73 (1966)
- Optimal selection based on relative rank (the "secretary problem")Y. S. Chow, S. Moriguti, H. Robbins & S. M. Samuels, Israel Journal of Mathematics 2, 81–90 (1964)
- A Solution to the Game of GoogolAlexander V. Gnedin, The Annals of Probability 22(3), 1588–1595 (1994)
- Sequential Decision Making with Relative Ranks: An Experimental Investigation of the "Secretary Problem"Darryl A. Seale & Amnon Rapoport, Organizational Behavior and Human Decision Processes 69(3), 221–236 (1997)