出生性比105は、男児の高い死亡率の埋め合わせなのか ― 100を切るのは60歳前後
生まれてくる子は、女児100人に対して男児105人前後です。この差は、男児が多く亡くなる分を先に埋めるためだと説明されがちです。日本の約150年分の出生性比と、10月公表の年齢別人口で確かめました。
この記事の要点
- 日本の出生性比は、女児100に対して男児105前後です。2026年5月1日現在の0〜4歳も105.07でした。
- 男性が多い状態は長く続きます。性比が100を切るのは60歳前後で、85〜89歳では58.78まで下がります。
- 「男児のほうが死にやすい分を先に上乗せしている」という説明は、理論の面でも日本の数字でも支えきれません。
性比という目盛り
人口の男女のつり合いは、「性比」という数字で表します。女性100人に対して男性が何人いるか、という比率です。100なら男女同数、100より大きければ男性が多いことになります。
総務省統計局は2026年10月20日に「人口推計」を公表しました。そこに載っている2026年5月1日現在の確定値から、5歳ごとの性比を計算してみます。0〜4歳は男児1,907千人に対し女児1,815千人で、性比は105.07。10〜14歳でも104.99です。生まれたときの男児の多さが、そのまま10代半ばまで残っています。
ところが年齢が上がると、この数字は坂を下るように落ちていきます。55〜59歳で100.64、60〜64歳で98.43。このあたりで男女の人数が入れ替わります。75〜79歳では82.64、85〜89歳では58.78、100歳以上では15.85です。総人口でみると94.75で、日本全体では女性のほうが多い計算になります。
1 : 1が均衡になる理由
そもそも、なぜ男女はおおむね半々なのでしょうか。これには、統計学者で遺伝学者のロナルド・フィッシャーが1930年に定式化した説明があります。「等投資の原理」と呼ばれます。
考え方はこうです。ある世代で男性が少なければ、男性ひとりあたりの子の数は女性より多くなります。すると息子を持つことが有利になり、息子を多く産む性質が増えます。逆に男性が多すぎれば、今度は娘が有利になります。どちらに傾いても引き戻す力が働きます。落ち着く先は息子と娘にかける親の投資が等しくなる点です。息子と娘にかかる手間や費用が同じなら、数も1 : 1に近づきます。
「埋め合わせ説」を日本の数字で確かめる
よく聞く話ですが、二つの点で成り立ちません。
第一に、理論の筋が通りません。アリステア・ピリーとベン・アシュビーは、2021年の論文でこれを否定しています。親の世話が終わったあとに生じる男女の死亡率の差は、性比の進化を動かさない ― というのがその結論です。選択が押し進める先は、死亡率の差があっても出生時のつり合いだとされます。つまり「大人になるまでに減る分を見越して多めに産む」という調整は、理論からは出てきません。効くのは、親が面倒をみている期間のうちの死亡だとされます。
第二に、日本の数字が合いません。もし埋め合わせが目的なら、男女同数になる年齢は結婚や出産の時期と重なるはずです。実際には、性比が100を切るのは60歳前後でした。子を持つ年齢をはるかに過ぎています。
| 年齢 | 性比 |
|---|---|
| 0〜4歳 | 105.07 |
| 10〜14歳 | 104.99 |
| 20〜24歳 | 106.93 |
| 40〜44歳 | 103.15 |
| 55〜59歳 | 100.64 |
| 60〜64歳 | 98.43 |
| 85〜89歳 | 58.78 |
| 総人口 | 94.75 |
約150年、105前後から動いていない
もうひとつの手がかりが、長い時系列です。日本の出生性比は、国立社会保障・人口問題研究所の資料で1873年までさかのぼれます。1873年は104.9、1900年は105.1、1950年は106.1、1970年は107.1。厚生労働省の統計では2015年と2019年がともに105.1です。社人研の系列で最も低いのは1910年の103.9、最も高いのは1966年の107.6。約150年にわたって、4ポイントに満たない幅の中に収まっています。
この間に、子どもの死にやすさは大きく変わりました。乳児死亡率(出生千人あたりの1歳未満の死亡数)は、1950年の60.1から2022年の1.8へ下がっています。およそ33分の1です。
埋め合わせ説が正しければ、死亡率がこれだけ下がった現在、上乗せ分も小さくなって性比は100に近づくはずです。けれども数字は動いていません。「死亡率を見ながら比率が調整されている」という像は、この一点だけでも描きにくくなります。
念のため、いまの乳児死亡が性比をどれだけ削るかも計算しました。2022年の出生は男児395,257人、女児375,502人で、出生性比は105.26。乳児死亡は男735人、女621人で、死亡数の性比は118.4です。たしかに男児に偏っています。ただし乳児死亡の総数は1,356人、同じ年の出生数770,759人のおよそ0.18%にすぎません。出生性比105.26は、1歳の誕生日の時点で105.24にしかなりません。差は0.02ほどで、現代日本では事実上ゼロです。
では、105という上乗せは何なのか
ここまでで分かるのは、105が「将来の死亡を見越した設計値」ではない、ということです。では何なのか。正直に言えば、決着していません。
受精の時点では男女がほぼ半々だという報告があります。オーザックらが2015年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表したものです。出生時の差は、妊娠期間中の失われ方の違いによって生じるとしています。胎内での男児の弱さを指摘する説もあります。いずれも「105という値そのもの」を導くには至っていないとされます。
世界に目を移すと、出生性比はおおむね103〜107の範囲に収まります。世界保健機関が目安とする値も105前後です。中国や韓国で一時期115を超えたように、人の選択が加わると帯から外れます。逆に言えば、人が手を加えない限り、どの国もおおむね同じ範囲に収まるとされます。
黄金比研究所の見立て
性比105は、黄金比でも設計値でもありません。均衡を決めている仕組み(等投資)と、観測される値(105)の間に、まだ説明されていない隙間があります。
興味深いのは、この隙間が最近いっそう目立つようになったことです。乳児死亡率が60.1だった時代には、出生時の上乗せが幼いうちに削られていました。いまの日本では、0〜4歳の105.07が10〜14歳で104.99と、ほとんど下がりません。削る力が消えたぶん、105という数字が裸で残っているわけです。
そして、その上乗せが尽きるのは60歳前後。そこから先は、年を追うごとに女性が増えていきます。100歳以上では15.85、つまり男性ひとりに女性が6人を超える計算です。生まれたときのわずかな偏りと、人生の終盤の大きな偏り。同じ「性比」という目盛りの上で、方向の違う二つの話が起きています。前者は仕組みが未解明で、後者は寿命の差という既知の理由があります。この二つを一本の設計図でつなぐ説明には、ひとまず用心しておくのがよさそうです。
出典・参考資料
- 人口推計(2026年(令和8年)5月確定値、2026年(令和8年)10月概算値)総務省統計局
- 令和3年度「出生に関する統計」の概況(統計表1 年次別にみた出生数・出生率・出生性比)厚生労働省
- 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況厚生労働省
- 表4-1 性別出生数および出生性比:1873〜(人口統計資料集)国立社会保障・人口問題研究所
- Does differential mortality after parental investment affect sex ratio evolution? NoPirrie & Ashby, Evolution 75(12):3175-3180 (2021)
- Gender RatioOur World in Data
- The human sex ratio from conception to birthOrzack et al., PNAS (2015)
- The Genetical Theory of Natural Selection(等投資の原理の出典)R. A. Fisher, Clarendon Press (1930)