プラスチックのくもりは、なぜ2.5度で切るのか ― 規格が定めた散乱光と全光線の比
透明な板の「白っぽさ」は、ヘーズという数字で表されます。これは散乱した光の量ではなく、全光線透過率に対する割合です。境目は入射方向から2.5度。その一本の線が何を分けているのかを解きます。
この記事の要点
- ヘーズ(くもり度)は、散乱した光の量そのものではありません。全光線透過率に対する割合として定められています。
- くもりに数える境目は、入射方向から0.044ラジアン(2.5度)です。これより外へそれた光だけを数えます。
- 完全な拡散板なら2.5度の内側に残る光は0.19%しかなく、計算上のヘーズは99.8%になります。
ヘーズは「量」ではなく「比」
食品用のラップ、スマートフォンの保護フィルム、車のヘッドライトのカバー。透明なはずのプラスチックが、うっすら白く見えることがあります。この白っぽさを数字にしたものが、ヘーズ(くもり度)です。
日本産業規格 JIS K 7136:2000 は、ヘーズをこう定めていました。「試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率」。この角度は、国際規格の ISO 14782 でも、米国の ASTM D1003 でも同じ0.044ラジアン(2.5度)です。式はこうなります。
ここが要点です。分子だけを見れば「どれだけ散ったか」ですが、規格は必ず分母で割ります。散らばった光の絶対量ではなく、通り抜けた光のうち何割が散ったかを問うのです。
理由は、光の通りやすさと切り離すためです。光をあまり通さない板では、散った光の絶対量も小さくなります。絶対量だけで測れば、暗い板ほど「くもっていない」ことになってしまいます。割合にすれば、通りやすさは分母と分子の両方に同じようにかかります。残るのは「散り方」だけです。
実際の測定は、内側が白い球(積分球)を使い、4つの値を読みます。τ1は入射光、τ2は試験片を通った全光束、τ3は装置自身が散らす分、τ4は装置と試験片が散らす分です。
編集部で確かめたところ、この式は τd ÷ τt を整理したものと同じ値になります。測りたいのは試験片だけなので、装置の散乱を引く項が入っているわけです。
なぜ2.5度で切るのか
2.5度という角度は、計算から出てきた数ではありません。規格が定義として書き込んだ線です。では、その線は何を分けているのでしょうか。
透明な材料の見えにくさには、性質の違う二つがあります。ひとつは、広い角度へ散った光(広角散乱)が全体に薄くかぶり、黒が黒く見えなくなることです。白っぽさ、かすみにあたります。もうひとつは、ごく浅い角度でわずかに曲がった光(狭角散乱)が、向こう側の輪郭をにじませることです。油膜越しに景色を見るときの感じに近いものです。
2.5度は、この二つのあいだに置かれています。それより外は広角散乱としてヘーズに数えます。それより内側の散乱は、ヘーズには入りません。測定器の分野では内側を透明性(クラリティ)として別に測る習わしがあるとされますが、ここに挙げた3つの規格は、その線引き自体を定めてはいません。
装置の側では、この角度を寸法で近似します。ASTM D1003 は、球の出口のあなが入口から見て8度を占めると指定します。まっすぐ抜ける光束の外側には、1.3度の環が残ります。実物の装置では、切れ味は階段状ではありません。2.5度のあたりで、なだらかに変わります。定義で角度を固定し、寸法でそれに近づける、という二段構えになっています。
完全な拡散板は、なぜ99.8%になるのか
2.5度という線引きが極端ではないか、と感じるかもしれません。確かめてみます。
どの向きから見ても同じ明るさに見える理想の拡散面を、ランベルト面といいます。この面では、角度θの方向へ出る光の強さがcosθに比例します。これを半角αの円すいの内側で足し合わせると、全体に対する割合はsin2αになります。編集部で計算した値を並べます。
| 内側に数える半角 | そこに残る光の割合 |
|---|---|
| 1.3度 | 0.05% |
| 2.5度 | 0.19% |
| 5度 | 0.76% |
| 10度 | 3.0% |
| 30度 | 25% |
| 45度 | 50% |
完全な拡散板では、2.5度の内側に残るのはわずか0.19%です。つまり計算上のヘーズは99.8%になります。反対に、傷ひとつない透明板なら光はまったく散らないので0%です。
角度を45度まで広げてしまうと、完全な拡散板でもヘーズは50%止まりになり、目盛りの半分が死にます。逆に小さくしすぎれば、ごくわずかな散乱まで拾って値が飽和します。2.5度という狭い円すいは、0から100までの目盛りを素直に使い切るための線でもあるわけです。
上限が30%と40%で分かれている
この測り方には上限があります。しかも、規格によって線の位置が違います。
| 規格 | 適用できる範囲 |
|---|---|
| ASTM D1003 | ヘーズ30%超は「拡散材」とみなし、別の方法(Practice E2387)へ回す |
| ISO 14782 / JIS K 7136 | ヘーズ40%以下の材料に適用できる |
上限がある理由は、散乱が強くなると光が試験片の中で何度もぶつかるようになり、「一度散った分の割合」という単純な見方が成り立たなくなるためと考えられます。どこで線を引くかは、物理が一意に決める問題ではありません。30と40の差は、その判断の幅がそのまま出たものと読めます。
ISO 14782 と JIS K 7136 は、表面がすりガラス状になった透明プラスチックについて注意を書いています。測定はできるものの、値が実際より低く出ることがあるとされます。表面の細かい凹凸による散乱は狭い角度に集まりやすく、2.5度の内側にとどまってしまうためです。
俗説・誤解チェック
別の量です。全光線透過率は、どれだけ通ったかを表します。ヘーズは、通った光がどう散ったかを表します。光をよく通す板が、同時に白っぽいこともあります。だからこそ、この二つは別の規格で測られます。ヘーズは JIS K 7136、全光線透過率は JIS K 7361-1 です。この2件は、経済産業省の2026年10月20日の公示で、そろって改正されました。
これも違います。にじみの原因になる狭角散乱は、定義上ヘーズに数えられません。すりガラス状の表面で値が低めに出るという規格の注意は、まさにこの隙間の話です。見え方を語るには、ヘーズだけでは足りません。
黄金比研究所の見立て
2.5度は、数学から導かれた数ではありません。人が決めた線です。だからこそ、別の決め方もありえました。その意味で、この記事の根拠は「規格・慣習」に分類しています。
ただし、思いつきで置かれた数でもなさそうです。白っぽさとにじみという別々の欠点を切り分けるには小さすぎません。拡散板で目盛りを使い切るには大きすぎません。計算してみると、2.5度はその両方を満たす位置に落ち着いています。
そして定義の形そのものが、比という道具の使い方を教えてくれます。測りたいものに別の要因が混ざっているとき、その要因が分母と分子に等しくかかる形に組み直せば、割り算で消えます。ヘーズが「量」ではなく「比」である理由は、結局そこに尽きます。
出典・参考資料
- 日本産業規格(JIS)の制定・改正(2026年10月20日公示)経済産業省
- 2026年10月20日公示リスト(JIS K 7136・JIS K 7361-1 の改正を含む)経済産業省
- ISO 14782:2021 Plastics — Determination of haze for transparent materialsInternational Organization for Standardization
- ASTM D1003-21 Standard Test Method for Haze and Luminous Transmittance of Transparent PlasticsASTM International