黄金比研究所Golden Ratio Lab
1:1.85 飲料缶の直径と高さの比
もうひとつの最適比

飲料缶は、なぜ高さが直径の1.85倍なのか ― 最適比はふたの値段で動く

表面積だけを最小にするなら、円柱の答えは直径=高さです。ところが北米仕様の355mL缶は直径66mmに高さ122.22mm。ふた2枚の材料を重く数え直すと、最適な形がどこへ動くのかが見えてきます。

2026年10月12日更新 2026年10月22日文・黄金比研究所編集部

355mLを円柱で包む ― 形だけを変えて、材料を比べる 表面積が最小の形 1 : 1 27,755 mm² 最小 標準の飲料缶 1 : 1.852 28,857 mm² +4.0% スリーク缶 1 : 2.70 30,536 mm² +10.0% 金色の面=ふた(上下のふち)。直径 : 高さ で表記 ふたを何倍で数えるかで、最適な比が動く 100 105 110 115 材料の量(それぞれの最小=100) 実際の缶 1.852 ふたを1倍で数える ふたを2倍で数える 1 2 3 4 高さ ÷ 直径 図:黄金比研究所
同じ355mLを円柱で包み、形だけを変えて材料を比べた図。右は、ふたを何倍で数えるかで最適な比が動くことを示す。

この記事の要点

  • 表面積だけを最小にするなら、円柱の答えは「直径=高さ」。ところが北米仕様の355mL缶は直径66mmに対して高さ122.22mmで、比は1対1.852です。
  • ふた(上下のふち)の材料が側面のk倍高くつくと仮定すると、最適な形は「直径1に対して高さk」へ動きます。k=2のときの最適形と実物は、材料の量で0.1%差まで並びます。
  • ただし実物が最小より増える材料はわずか4.0%。前提をどう置いても材料はあまり変わらないので、形の細部は人の都合が決めています。

缶の寸法は、ほぼ「1対1.85」

製缶大手クラウン・ホールディングスは、自社の飲料缶の寸法を容量ごとに公開しています。12オンス(355mL)の標準缶は直径66mm、高さ122.22mm。高さを直径で割ると1.852です。500mL缶は直径66mm・高さ168mmで、比は2.55になります。以下の計算は、丸めずに1.852のまま進めます。

缶の世界には、インチ由来とされる呼び名が今も残っています。高さの呼称「413」は4と13/16インチのことで、計算すると122.24mm。公開寸法の122.22mmと、ほぼぴたりと一致します。500mL缶の「610」は6と10/16インチ、つまり168.28mmです。

ただし呼称と実寸の対応は一様ではありません。細身の「スリーク缶」の高さの呼称「602」は6と2/16インチ=155.58mmで、公開寸法156.59mmとは約1mmずれます。直径の呼称「211」は2と11/16インチ=68.26mmで、公開されている胴の直径66mmより2mmほど大きい値です。一方で「204.5」は57.94mmと公開寸法58mmにほぼ一致します。このずれの理由は、本記事で参照した出典では確認できませんでした。
日本の缶は少し事情が違います。アルテミラの製品情報では、缶胴径211径が350mLと500mL、355mLは204径にあたります。つまり日本で「66mm胴」なのは350mL缶で、355mL×66mmはおもに北米の規格です。

表面積だけを最小にすると、答えは「1対1」

ここで、素朴な問いを立ててみます。同じ量を入れる円柱のうち、使う板がいちばん少ないのはどんな形でしょうか。半径をr、高さをhとすると、容積と表面積はこう書けます。

V = πr²h / S = 2πrh + 2πr²Sの前半が側面、後半がふた2枚(上下のふち)の面積

容積Vを決めてしまえばhはrで表せるので、Sはrだけの式になります。S=2V/r+2πr²をrで微分してゼロにすると、r³=V/(2π)。これをhの式に戻すと、h=2r、つまり高さがちょうど直径と同じ形が答えです。缶を横に倒せば正方形に見える、ずんぐりした形です。

355mLで計算すると、直径も高さも76.7mm、表面積は27,755mm²。一方、実物と同じ1対1.852の比のまま355mLにすると、直径62.5mm・高さ115.7mmで表面積は28,857mm²でした。実物の形は、理屈の上の最小より4.0%だけ多く板を使っていることになります。

ふたを2倍で数えると、答えが「1対2」へ動く

では、なぜ缶はずんぐりしないのでしょうか。手がかりは「側面とふたは、同じ面積でも同じ値段ではない」という点です。

大和製罐は2ピース缶の軽量化の手立てとして、「缶胴に使用する板厚を薄くする」ことと並んで「蓋を縮径化する。その為に缶のネック形状を変更する」ことを挙げています。胴は薄くする方向、ふたは小さくする方向。ふたは薄くするより縮めにいく部分だと読めます。耐圧強度を保つためにボトム形状を変更する、という記述も同じページにあります。

そこで、ふたの材料が側面のk倍高くつくと仮定して、同じ計算をやり直します。

Sk = 2πrh + k·2πr² → 最小になるのは h = k·2r直径1に対して高さk。k=1なら1対1に戻る

結論は驚くほど単純です。ふたがk倍高いなら、最適な形は直径1対高さk。k=1なら1対1、k=2なら1対2へと、答えが素直に動きます。

形(直径:高さ)表面積ふたを2倍で数えた材料
1 : 1(表面積が最小)27,755 mm²37,006
1 : 1.852(標準缶)28,857 mm²34,992
1 : 2(k=2の最適)―34,968
1 : 2.70(スリーク缶)30,536 mm²35,307

右の列で順位が入れ替わります。ふたを2倍で数えると、ずんぐりした1対1はいちばん損な形になり、実物の1対1.852はk=2の最適値と材料の量で0.07%差まで近づきます。いずれも355mLの円柱として筆者が計算し直した値です。

k=2という数字は、実物の比から逆算した当てはめです。ふたの板厚や巻き締めに使う材料の実測値から求めたものではありません。この節が示すのは「ふたを重く数えると答えが縦長側へ動く」という向きと、その大きさの目安までです。

内圧は、側面を勝負から降ろす

炭酸飲料の缶には内側から圧力がかかります。円筒の壁にかかる周方向の引張応力は、圧力をp、半径をr、壁の厚さをtとして σ=pr/t と表されます。同じ応力までしか許さないなら、必要な厚さはrに比例して増えます。細い缶は薄い壁で足り、太い缶は厚い壁が必要になるということです。

この条件を入れると、側面に使う材料の体積は 2πrh×t=(2p/σ)×πr²h となり、容積が同じなら形によらず一定になります。側面は、どんな比率にしても材料の量が変わりません。すると形の勝負はふただけで決まり、細いほど得という話になって、止まるところがなくなります。

二つのモデルは、実物を両側から挟みます。表面積だけを見る計算は1対1というずんぐりした形を指し、内圧まで入れた計算はいくらでも細い形を指す。実際の缶の1対1.852は、その間にあります。

これは理屈の方向を示す計算で、実物の缶はこれほど単純ではありません。胴の底はドーム状にへこませてあり、口元は絞って細くしてあります。355mL缶の外形を単純な円柱として計算すると418mLになり、中身との差63mLは、胴壁の厚み、ネックの絞り、底のドーム、ヘッドスペースの合計にあたります。

俗説・誤解チェック

「缶や箱の縦横比は黄金比でできている」

1対1.852は、黄金比の1.618と比べて約14%縦長です。黄金比の説明として持ち出せる数字ではありません。この記事の比率は、金属の値段と内圧の側から出てきたものです。

逆の誤解も避けたいところです。「缶の形は材料を最小にするように決まっている」も言いすぎです。同じクラウンの12オンスには、直径58mm・高さ156.59mmの細長い「スリーク缶」もあります。比は2.70で、表面積は標準缶より約6%多くなります。同じ中身の量に、二つの形が並んで売られているわけです。

実物が理屈の最小より多く使う板は、わずか4.0%でした。この差の小ささ自体が答えの一部です。形をどこに置いても材料はあまり変わらないので、手の大きさ、自動販売機やケースの寸法、積み方、既存の設備といった、数字になりにくい条件が形を決める余地が残ります。

黄金比研究所の見立て

この缶は、最適化の問題の「前提を変えると答えが動く」見本です。表面積という一つの物差しだけなら答えは1対1。ふたと側面の値段の違いを入れると1対k。内圧の条件を入れると側面は勝負から降り、細長さを止めるものがなくなります。式はどれも正しく、前提が違うだけです。

私たちが棚で見ている缶は、そのうちのどれでもありません。インチで決まった寸法が設備ごと受け継がれ、その周りを材料費と手の都合が削り合った結果だと、編集部は見ています。1対1.852という比は、計算の答えというより、計算が許した幅のなかで人の都合が落ち着いた場所です。だから同じ355mLに、1対1.852と1対2.70が並んで売られていてもおかしくないのです。

出典・参考資料

  1. 12oz./355ml Standard(寸法仕様)Crown Holdings
  2. 12oz./355ml CrownSleek(寸法仕様)Crown Holdings
  3. 16.9oz./500ml Standard(寸法仕様)Crown Holdings
  4. 軽量化(2ピース缶・3ピース缶の軽量化手法)大和製罐
  5. 製品情報(アルミ缶の缶胴径・缶蓋口径)アルテミラ