飲料缶は、なぜ高さが直径の1.85倍なのか ― 最適比はふたの値段で動く
表面積だけを最小にするなら、円柱の答えは直径=高さです。ところが北米仕様の355mL缶は直径66mmに高さ122.22mm。ふた2枚の材料を重く数え直すと、最適な形がどこへ動くのかが見えてきます。
この記事の要点
- 表面積だけを最小にするなら、円柱の答えは「直径=高さ」。ところが北米仕様の355mL缶は直径66mmに対して高さ122.22mmで、比は1対1.852です。
- ふた(上下のふち)の材料が側面のk倍高くつくと仮定すると、最適な形は「直径1に対して高さk」へ動きます。k=2のときの最適形と実物は、材料の量で0.1%差まで並びます。
- ただし実物が最小より増える材料はわずか4.0%。前提をどう置いても材料はあまり変わらないので、形の細部は人の都合が決めています。
缶の寸法は、ほぼ「1対1.85」
製缶大手クラウン・ホールディングスは、自社の飲料缶の寸法を容量ごとに公開しています。12オンス(355mL)の標準缶は直径66mm、高さ122.22mm。高さを直径で割ると1.852です。500mL缶は直径66mm・高さ168mmで、比は2.55になります。以下の計算は、丸めずに1.852のまま進めます。
缶の世界には、インチ由来とされる呼び名が今も残っています。高さの呼称「413」は4と13/16インチのことで、計算すると122.24mm。公開寸法の122.22mmと、ほぼぴたりと一致します。500mL缶の「610」は6と10/16インチ、つまり168.28mmです。
表面積だけを最小にすると、答えは「1対1」
ここで、素朴な問いを立ててみます。同じ量を入れる円柱のうち、使う板がいちばん少ないのはどんな形でしょうか。半径をr、高さをhとすると、容積と表面積はこう書けます。
容積Vを決めてしまえばhはrで表せるので、Sはrだけの式になります。S=2V/r+2πr²をrで微分してゼロにすると、r³=V/(2π)。これをhの式に戻すと、h=2r、つまり高さがちょうど直径と同じ形が答えです。缶を横に倒せば正方形に見える、ずんぐりした形です。
355mLで計算すると、直径も高さも76.7mm、表面積は27,755mm²。一方、実物と同じ1対1.852の比のまま355mLにすると、直径62.5mm・高さ115.7mmで表面積は28,857mm²でした。実物の形は、理屈の上の最小より4.0%だけ多く板を使っていることになります。
ふたを2倍で数えると、答えが「1対2」へ動く
では、なぜ缶はずんぐりしないのでしょうか。手がかりは「側面とふたは、同じ面積でも同じ値段ではない」という点です。
大和製罐は2ピース缶の軽量化の手立てとして、「缶胴に使用する板厚を薄くする」ことと並んで「蓋を縮径化する。その為に缶のネック形状を変更する」ことを挙げています。胴は薄くする方向、ふたは小さくする方向。ふたは薄くするより縮めにいく部分だと読めます。耐圧強度を保つためにボトム形状を変更する、という記述も同じページにあります。
そこで、ふたの材料が側面のk倍高くつくと仮定して、同じ計算をやり直します。
結論は驚くほど単純です。ふたがk倍高いなら、最適な形は直径1対高さk。k=1なら1対1、k=2なら1対2へと、答えが素直に動きます。
| 形(直径:高さ) | 表面積 | ふたを2倍で数えた材料 |
|---|---|---|
| 1 : 1(表面積が最小) | 27,755 mm² | 37,006 |
| 1 : 1.852(標準缶) | 28,857 mm² | 34,992 |
| 1 : 2(k=2の最適) | ― | 34,968 |
| 1 : 2.70(スリーク缶) | 30,536 mm² | 35,307 |
右の列で順位が入れ替わります。ふたを2倍で数えると、ずんぐりした1対1はいちばん損な形になり、実物の1対1.852はk=2の最適値と材料の量で0.07%差まで近づきます。いずれも355mLの円柱として筆者が計算し直した値です。
内圧は、側面を勝負から降ろす
炭酸飲料の缶には内側から圧力がかかります。円筒の壁にかかる周方向の引張応力は、圧力をp、半径をr、壁の厚さをtとして σ=pr/t と表されます。同じ応力までしか許さないなら、必要な厚さはrに比例して増えます。細い缶は薄い壁で足り、太い缶は厚い壁が必要になるということです。
この条件を入れると、側面に使う材料の体積は 2πrh×t=(2p/σ)×πr²h となり、容積が同じなら形によらず一定になります。側面は、どんな比率にしても材料の量が変わりません。すると形の勝負はふただけで決まり、細いほど得という話になって、止まるところがなくなります。
二つのモデルは、実物を両側から挟みます。表面積だけを見る計算は1対1というずんぐりした形を指し、内圧まで入れた計算はいくらでも細い形を指す。実際の缶の1対1.852は、その間にあります。
俗説・誤解チェック
1対1.852は、黄金比の1.618と比べて約14%縦長です。黄金比の説明として持ち出せる数字ではありません。この記事の比率は、金属の値段と内圧の側から出てきたものです。
逆の誤解も避けたいところです。「缶の形は材料を最小にするように決まっている」も言いすぎです。同じクラウンの12オンスには、直径58mm・高さ156.59mmの細長い「スリーク缶」もあります。比は2.70で、表面積は標準缶より約6%多くなります。同じ中身の量に、二つの形が並んで売られているわけです。
実物が理屈の最小より多く使う板は、わずか4.0%でした。この差の小ささ自体が答えの一部です。形をどこに置いても材料はあまり変わらないので、手の大きさ、自動販売機やケースの寸法、積み方、既存の設備といった、数字になりにくい条件が形を決める余地が残ります。
黄金比研究所の見立て
この缶は、最適化の問題の「前提を変えると答えが動く」見本です。表面積という一つの物差しだけなら答えは1対1。ふたと側面の値段の違いを入れると1対k。内圧の条件を入れると側面は勝負から降り、細長さを止めるものがなくなります。式はどれも正しく、前提が違うだけです。
私たちが棚で見ている缶は、そのうちのどれでもありません。インチで決まった寸法が設備ごと受け継がれ、その周りを材料費と手の都合が削り合った結果だと、編集部は見ています。1対1.852という比は、計算の答えというより、計算が許した幅のなかで人の都合が落ち着いた場所です。だから同じ355mLに、1対1.852と1対2.70が並んで売られていてもおかしくないのです。
出典・参考資料
- 12oz./355ml Standard(寸法仕様)Crown Holdings
- 12oz./355ml CrownSleek(寸法仕様)Crown Holdings
- 16.9oz./500ml Standard(寸法仕様)Crown Holdings
- 軽量化(2ピース缶・3ピース缶の軽量化手法)大和製罐
- 製品情報(アルミ缶の缶胴径・缶蓋口径)アルテミラ