ごはんは、なぜ米1に水1.4なのか ― 炊きあがり2.13倍から逆算する加水比
白米を炊くときの水は、米の重さの1.3〜1.5倍。鍋炊きの手引きでは1.4倍とされます。農林水産省の資料は、この水を「吸水量と蒸発量の合計」と説明しています。2つを別々に見積もると、どこから1.4が出るのかが見えてきます。
この記事の要点
- 炊飯の加水量は「米の吸水量と加熱中の蒸発量の合計」とされます。この2つを別々に見積もると、米1に水1.4という比が出てきます。
- 食品成分表の水分値(精白米14.9%、飯60.0%)だけで、米に入るべき水が112.75g、炊きあがりが米の2.13倍と計算できます。
- 数学で決まった比ではありません。文献の目安は1.3〜1.5倍と幅があり、1987年の実験で官能評価が最も高かったのは1.3〜1.4倍でした。
「1 : 1.4」の正体
炊飯の加水比は、米の重さに対する水の重さで表します。米100gなら水140g。大阪市が配っている鍋炊きの手引きは、米1合=180mL(150g)に対して水210mL(210g)と書いています。割り算すると210÷150=1.40です。
同じ分量を容量で見ると210÷180=1.17で、手引きはこれを「およそ1.2倍」としています。同じ鍋の中身なのに、量り方を変えると比が1.4と1.2に分かれます。
なぜ1.4倍なのか ― 吸水と蒸発に分けて数える
農林水産省の資料は、加水量の決まり方をこう書いています。「加水量は米の吸水量と加熱中の蒸発量の合計量が必要となり、米の重さの1.5倍(米の容積の1.2倍)が基準とされます」。足し算の内訳が示されているので、2つの項を別々に出せます。
まず吸水量。日本食品標準成分表(八訂)増補2023年では、精白米(うるち米)の水分が14.9%、炊いた飯の水分が60.0%です。米100gのうち水ではない部分(でんぷんなどの固形分)は85.1gで、炊いても増えも減りもしません。その85.1gが水分60.0%の飯になるなら、飯全体は85.1÷0.400=212.75gです。
飯にふくまれる水は212.75−85.1=127.65g。もともと米にあった14.9gを引くと、新たに米へ入る水は112.75g。炊きあがりは米の2.13倍です。
次に蒸発量。同じ農水省の資料は、洗米後に水を加えた「釜内の最終的な重さが米の重さの2.5倍で適量」とし、好まれるかたさの飯は「米の重さの2.2倍前後」としています。この2つの差0.3倍が、加熱中に失われる分です。加えた水1.5倍に対する0.3倍なので、割合は2割。
吸水112.75gが加えた水の8割にあたるとすれば、必要な水は112.75÷0.8=140.9g。米の約1.41倍です。1.4という数字は、こうして吸水と蒸発を別々に数えても同じ場所に出てきます。
加水比を変えると、何が変わるのか
加水比を振った実験が、1987年の日本家政学会誌に載っています。貝沼やす子・江間章子による報告です。意外なのは、炊いた直後のでんぷんの糊化度(のり状に変わった度合い)が、加水比の多少にかかわらず95%前後だったことです。水を少なめにしても、火は通っているのです。
では何が変わるのか。報告によれば、加水比1.3倍以上と1.2倍以下では飯の性状が分かれ、加水が少ないほど釜内の場所による出来のばらつきが大きくなりました。加水比1.2倍以下では、水の対流を伴う実質的な沸騰期が見られなかったと考えられるとされています。かき混ぜる力が働かないので、上と下で差が残るわけです。
さらに、炊いて24時間おくと、加水が少ないものほど糊化度が下がりました。冷めたあとの固さにも効いてきます。総合的な官能評価がもっとも高かったのは加水比1.3〜1.4倍で、ただし好まれる範囲にはかなり幅があったと報告されています。なお農水省の資料には、ガスと電気の両方を考慮して1.3〜1.5倍とする記載もあるとされます。こちらは文献上の目安の幅で、官能評価で測った幅とは別のものです。
量り方で数字が動く理由
容量の1.2倍と重量の1.4倍が同じことを指すのは、米が容器にぎっしり詰まらないからです。計量法で1合は180.39mL。ここに白米150gが入るなら、見かけの密度は0.83g/mLです。
| 見かけの密度 | 容量比1.2倍を重量比に直すと |
|---|---|
| 0.83g/mL(1合=150g) | 1.44倍 |
| 0.80g/mL | 1.50倍 |
農水省の基準1.5倍は、下の行に近い換算にあたります。いっぽう「近年の家庭用電気炊飯器は、加熱中の蒸発量が少ない製品が多く、加水量は米の重さの1.3〜1.4倍です」とも書かれています。先の足し算に戻れば、蒸発の項が小さくなった分だけ加水も減る、という関係です。
炊飯器の内釜の水位線は合(容量)を基準にしているので、使う側は密度を気にせずに済みます。ただし同資料は、米を「すりきり一杯」で量ることが前提で、調理用計量カップ(200mL)では代替できないと注意しています。
俗説・誤解チェック
前者は容量で量る場合の近い目安ではありますが、1.2倍を基準にすると16.7%の不足です。鍋炊きでは水位の差として現れます。後者について農水省の資料は、浸漬後30分間は吸水が急速に進み約2時間でほぼ飽和するとして「1〜2時間の浸漬が適当」とし、「浸漬が長すぎると米粒表層部の組織が崩れやすく、食味低下の一因になります」としています。長く浸けるほど良いわけではないのです。
新米を控えめにするという加減も、理由は水分ではなく胚乳の軟らかさだと説明されてきました。しかも同資料はこれを「以前は」と書き、近年は電気炊飯器の97〜98%がマイコンを搭載し、新米度炊き分け機能によって同じ加水量でも炊き分けられるとしています。また加水量は洗米でつく付着水(約10%)込みの値だとされているので、研がずに炊く無洗米では、その分の扱いが変わることになります。
黄金比研究所の見立て
1 : 1.4は、数学から導かれる比ではありません。「水分60%前後の飯」という到達点を人の好みが決め、そこから吸水と蒸発を足して出てきた帳尻です。基準の飯の水分が変われば、比も動きます。
それでも、成分表の2つの水分値から吸水112.75gが出て、別の資料の2つの倍率から蒸発2割が出て、両者を合わせると1.41倍に着地する。この一致は気持ちのよいところです。「1.4」という単一の数字を固定しているのは合という計量の慣習と各資料の丸めですが、その背後にある幅の広さは、好みをそのまま映した数字だと言えます。台所の経験則が、成分表の数字と同じ場所を指していた、という種類の比率です。