コメの作況は、なぜ「5年のうち3年」と比べるのか ― 分母を変えた新指数の102
農林水産省は2026年10月13日、令和8年産の作況単収指数を102と公表しました。分子はその年の10a当たり収量、分母は過去5年のうち最高と最低を除いた3年の平均です。なぜ5年のうち3年なのか。分母の設計を計算で追いました。
この記事の要点
- 作況単収指数は「その年の10a当たり収量 ÷ 過去5年のうち3年の平均 × 100」という割り算です。令和8年産は524kg ÷ 516.3kg で、公表値は102でした。
- 最高と最低を1年ずつ捨てる効き方は、ふだんのばらつきを均すためというより、まれに大きく落ちる年に分母が引きずられるのを防ぐ側に出ます。
- 分母の取り方を変えると、同じ524kgが100から102まで動きます。指数は収量の多少ではなく、何と比べたかを表す数字です。
作況単収指数は、割り算でできている
農林水産省は2026年10月13日、令和8年産の水稲について9月25日現在の予想収穫量を公表しました。主食用の作付面積は136万ha、10a当たり予想収量は524kg(生産者が使用しているふるい目幅ベース)、主食用の予想収穫量は710万5000tです。あわせて「作況単収指数102」という数字が出ました。
この102は、気温や日照を点数化したものではありません。公表資料の注記は、こう定めています。10a当たり収量を、前年産までの5か年中3年平均(最高、最低を除く)で割った比率である、と。つまり作況単収指数は、分子と分母がどちらも「10a当たり収量」という、ただの割り算です。
なぜ「5年のうち3年」なのか
分母の候補はいくつもあります。前年の収量、直近3年の平均、5年の平均、中央値。そのなかで「5年のうち3年」が選ばれた背景には、分母そのものが年ごとにふらつくと、指数が作柄ではなく分母の都合で動いてしまう、という事情があります。
採用後に示された検討会資料は、水稲の10a当たり収量について、単年値の標準偏差16kgに対し、直近3年平均で9kg、5年中3年平均で5kg、7年中5年平均で4kgという比較を載せています。年数を増やすほど安定する一方、増やしすぎると近年の変化を映さなくなります。
ただし、最高と最低を捨てる操作の効き方には条件があります。編集部で乱数を使って試算すると、収量のばらつきが上下対称で穏やかなら、5年中3年平均(標準偏差7.6kg)は単純な5年平均(7.2kg)にわずかに負けます。捨てた2年分の情報が、そのまま損になるからです。
向きが変わるのは、まれに大きく落ちる年が混じる場合です。ふだんのばらつきを8kg、10年に1度おおよそ60kg落ちる年があると置くと、直近3年平均は11.7kg、単純5年平均は9.1kgに対し、5年中3年平均は7.2kgまで下がりました。気象庁の災害資料によれば、1993年の冷夏では秋田県の作況指数が83(県北は69)まで落ち、「著しい不良」と記録されています。こうした年が5年のあいだ分母に残り続ける影響を、最高・最低の切り捨ては止めてくれます。
分母を変えると、同じ収量が100にも102にもなる
公表資料の時系列表によれば、全国の10a当たり収量(生産者ふるい目幅ベース)は、令和3年産515kg、4年産511kg、5年産515kg、6年産519kg、7年産526kgです。最高の526kgと最低の511kgを除くと、残りは515・515・519kgで、平均は516.3kgになります。
令和8年産の524kgをこの516.3kgで割ると101.5。分母を516kgに丸めてから割ると101.6で、公表値102と整合します。公表値がどの桁で丸めた値を使っているかは、資料に示されていません。いずれにせよ101と102の境目に乗る値です。同じ収量を別の分母で割ると、次のように動きます。
| 分母の取り方 | 分母(kg) | 指数 |
|---|---|---|
| 5年中3年平均(採用) | 516.3 | 101.5 |
| 5年の単純平均 | 517.2 | 101.3 |
| 直近3年の平均 | 520.0 | 100.8 |
| 5年の中央値 | 515.0 | 101.7 |
| 前年(令和7年産) | 526.0 | 99.6 |
幅は100から102のあいだ。作柄の評価としては、ほぼ同じことを言っています。それでも、どの分母を選んだかを知らないまま「102」だけを見ると、何に対して102なのかが分かりません。
30年のトレンドから、5年の実績へ
令和6年産までの作況指数は、分母が違いました。10a当たり平年収量、すなわち過去30年の傾向から推計した「その年に見込まれる平年の収量」です。品種や栽培技術の進歩を織り込んだトレンド値とされ、分母は実績そのものではなく、言わば目標線でした。
農林水産省は公表内容の見直しとして、令和7年産から分母を直近の実績に切り替えました。資料に挙げられた理由は、統計値が生産現場の実感とかい離しているという声が多かったこと、近年の高温の影響を映すこと、そして指数が収穫量全体の比較ではないと明確にすることです。令和7年10月10日の公表分から適用されています。
比べる相手が「できるはずの量」から「近ごろ実際にとれた量」へ移った、と言い換えられます。どちらが正しいという話ではありません。問いが変わったのです。
俗説・誤解チェック:102は「豊作」なのか
2つの点で、そうとは言えません。1つは、この指数が前年との比較ではないことです。令和8年産の指数は102ですが、主食用の予想収穫量は前年産より7万6000t少ない見込みです。作付面積が7000ha減ったことに加えて、10a当たり予想収量そのものも前年産より2kg少ないためです。前年を上回っていないのに102になるのは、比べる相手が前年ではなく、過去5年のうち3年の平均だからです。
もう1つは、分母が過去を向いていることです。先の5年を直線で近似すると、傾きは年あたり約3.0kgの上向きでした(5点からの推定なので幅があり、標準誤差は約1.1kg)。最高と最低を除いて残った3年は令和3・5・6年産なので、分母が代表する時点は当年より約3.3年前にあたります。傾きが続くなら、それだけで約1.9%、つまり指数102前後が「傾き通り」の値になります。
実際に直線を令和8年産まで延ばすと526.2kgで、予想収量524kgはそれを2.2kg下回りました。指数は102でも、近年の伸びに対してはわずかに届いていない、という読み方もできます。ここは確かめ方の違いであって、どちらかが誤りというものではありません。
黄金比研究所の見立て
作況単収指数は、数学から出てくる比ではありません。何を分母に置くかを人が決めた比です。だからこそ、決め方に設計の跡が残ります。5年にしたのは、水稲の年次変動が小さいからだと資料は説明します。3年に絞った効き方は、不作年が混じる場合にはっきり現れます。どちらも、測りたいものに合わせた割り切りです。
ここから引ける教訓は単純です。比率を見るときは、分子ではなく分母を先に確かめる。102という数字は、524kgという事実と、516.3kgという選択の積み上げでできています。選択の部分は、来年も同じとは限りません。