「2人で1人を支える」は本当か ― 働く人で数え直した0.79という比
10月20日公表の人口推計で、65歳以上は3625万人。15〜64歳で割ると2.02人になります。計算は正しいのですが、この値は年齢の線をどこに引いたかで動きます。就業しているかで数え直すと、就業者1人あたりの非就業者は0.79人でした。
この記事の要点
- 2026年10月20日公表の人口推計で、65歳以上は3625万人。15〜64歳の7332万人で割ると2.02人。この計算自体は正しい数字です。
- ただし値は年齢の線の位置で動きます。同じ日の人口でも、線を75歳にずらすだけで4.05人になります。
- 年齢ではなく就業しているかで数えると、就業者1人あたりの非就業者は0.79人。1975年の1.14人より少なくなっています。
2.02という数字の出どころ
総務省統計局は2026年10月20日、人口推計を公表しました。2026年10月1日現在の概算値で、総人口は1億2269万人。前年同月より53万人(0.43%)減りました。
年齢で三つに分けると、15歳未満が1312万人、15〜64歳が7332万人、65歳以上が3625万人です。65歳以上は総人口の29.5%を占めます。
ここから、よく引き合いに出される比が出ます。15〜64歳を65歳以上で割った数です。
「働く世代2人で、高齢者1人を支えている」。この言い方の下敷きになっているのが、この形の比です。2012年の政府パンフレット「社会保障と税の一体改革」は、1965年を「胴上げ型」で9.1人、2012年を「騎馬戦型」で2.4人、2050年を「肩車型」で1.2人(推計)と図示しました。以後、この三つの言葉は広く使われています。
線を10歳動かすと、比は倍になる
2.02は、人口の構造そのものではありません。65歳という線を、どこに引いたかの結果です。
同じ日の同じ人口を、75歳で切り直してみます。75歳以上は2169万人。15歳以上75歳未満は、総人口から15歳未満と75歳以上を引いて8788万人です。
2.02が4.05になりました。人は1人も動いていません。線だけが動いています。
15〜64歳を生産年齢人口、65歳以上を老年人口と呼ぶ区切りは、国際的な統計上の慣行によるものです。制度上の年齢と一致する場面もありますが、その年に体の働きが落ちるわけではありません。線の位置で比が倍になる以上、2.02だけを取り出して社会の姿を語るのは無理があります。
働いている人で数え直す
そこで、定義を変えてみます。年齢ではなく、実際に働いているかどうかで分けるやり方です。
労働力調査(基本集計)の2026年8月分によると、就業者は6849万人。前年同月より14万人増えました。総人口からこれを引いた5420万人が、働いていない人にあたります。子どもも、学生も、失業中の人も、引退した人もここに入ります。
就業者1人につき、働いていない人が0.79人という計算です。過去と並べると、こうなります。
| 年 | 総人口 | 就業者 | 年齢で引いた比 15〜64歳÷65歳以上 | 働く人で数えた比 非就業者÷就業者 |
|---|---|---|---|---|
| 1975年 | 1億1194万人 | 5223万人 | 8.55 | 1.14 |
| 2010年 | 1億2806万人 | 6257万人 | 2.77 | 1.05 |
| 2026年 | 1億2269万人 | 6849万人 | 2.02 | 0.79 |
年齢で引いた比は、51年で8.55から2.02へ、4.2分の1になりました。一方、働く人で数えた比は1.14から0.79へ下がっています。同じ国の同じ年を見ているのに、片方は急落し、片方はむしろ逆を向きました。
この数え方は新しいものではありません。日本医師会の日医ニュースは2016年5月20日のコラムで、権丈善一氏の著書から、就業者を基準にとれば比はほぼ横ばいで、1970年1.04、2010年1.05、2050年1.10(推計)という値を紹介しています。今回、同じ定義で1970年を計算し直すと、沖縄県を含まない総人口1億372万人と、同じく沖縄県を除く就業者5094万人から1.04となり、一致しました。
下がった理由は、分母から子どもが消えたこと
では、なぜ0.79まで下がったのでしょうか。総人口に占める就業者の割合が上がったからですが、その中身が問題です。
1975年 46.7% → 2010年 48.9% → 2026年 55.8%
一見すると、働く人がずいぶん増えたように読めます。ところが、15歳以上の人口だけを分母にとると、景色が変わります。
| 年 | 15歳未満の割合 | 15歳以上の就業率 | 就業者÷総人口 |
|---|---|---|---|
| 1975年 | 24.3% | 61.7% | 46.7% |
| 2010年 | 13.1% | 56.3% | 48.9% |
| 2026年 | 10.7% | 62.5% | 55.8% |
1975年 61.7% × 75.7% = 46.7%
2026年 62.5% × 89.3% = 55.8%人口推計と労働力調査から算出。四捨五入のため末尾が合わない場合がある
15歳以上の就業率は、1975年の61.7%から2026年の62.5%へ、0.8ポイントしか動いていません。51年かけて就業者の割合を46.7%から55.8%へ押し上げたのは、働く人が増えたことではなく、15歳未満の割合が24.3%から10.7%へ下がったことでした。分母から子どもが消えた分だけ、残った人の中の就業者が濃くなったのです。
短い期間を切り取れば、話は変わります。2010年から2026年までの16年に限れば、15歳以上の就業率は56.3%から62.5%へ6.2ポイント上がりました。ここには、女性の就業が広がったことと、65歳を過ぎても働く人が増えたことが効いているとされます。65歳以上で働く人は就業者に数えられますが、年齢で引いた比では支えられる側に入ります。同じ人が、数え方によって分子にも分母にも回るわけです。
この比で言えないこと
年齢で引いた比としては、2.02は正しい数字です。そこは動きません。確かめた結果として言えるのは、この2.02を「支える/支えられる」の重さと読み替えるところに無理がある、ということです。
同時に、0.79にも限界があります。就業者は、週に1時間でも収入を伴う仕事をすれば1人と数えられます。労働時間も所得も区別しません。人数を測る指標であって、重さを測る指標ではありません。
そして、支えられる側の中身が入れ替わっている点が残ります。1975年に非就業者の多くを占めたのは子どもでした。いまは高齢者です。公的な支出は高齢期に厚く配分されるため、同じ0.79人でも、1人あたりにかかる額は同じではありません。人数の比と、お金の流れの比は別物です。
黄金比研究所の見立て
比を読むときに効くのは、値そのものより「何で割ったか」です。2.02と0.79は、同じ国の同じ年を違う分母で見た数字にすぎません。片方が正しく片方が誤りなのではありません。
この記事の途中にも、同じ落とし穴がありました。就業者の割合が46.7%から55.8%へ上がったと聞けば、働く人が増えたのだと読みたくなります。実際に効いていたのは、分母から子どもが消えたことでした。分母の入れ替わりは、分子の変化の顔をしてやってきます。
年齢で引いた比は、人口の形を知るには役立ちます。将来推計もこの定義で積み上がっています。ただ、支える力そのものを見たいなら、年齢は代用品です。2.02という数字を見たら、まず「15〜64歳を65歳以上で割った値」と言い換えてみる。それだけで、話の射程はだいぶ正確になります。
出典・参考資料
- 人口推計(2026年10月1日現在 概算値、2026年10月20日公表)総務省統計局
- 人口推計 2026年5月確定値・2026年10月概算値 公表ページ総務省統計局
- 労働力調査(基本集計)月次結果(閲覧時点は2026年8月分、2026年10月2日公表)総務省統計局
- 人口推計(2024年10月1日現在)結果の概要 表4 年齢3区分別人口の推移総務省統計局
- 日本統計年鑑 19-1 就業状態別15歳以上人口(昭和41年〜平成26年、日英併記PDF)総務省統計局
- 社会保障と税の一体改革(2012年、胴上げ型・騎馬戦型・肩車型の図)厚生労働省
- プリズム「胴上げ型から肩車型社会の虚構」(2016年5月20日)日本医師会 日医ニュース