正五角形の対角線は、なぜ必ず黄金比になるのか ― 五芒星が1.618をつくる仕組み
正五角形の対角線を辺で割ると、必ず1.618…になります。近似ではなく形から決まる値です。五芒星に黄金比が何重にも現れる理由と、5という対称性が結晶に入れない理由を、方程式一本までたどります。
この記事の要点
- 正五角形の対角線と辺の長さの比は、大きさに関係なく必ず 1.618…:1 になります。測った結果ではなく、形から決まる値です。
- 理由は、対角線と辺でできる三角形の角を二等分すると、元と相似な三角形が現れることです。そこから x² − x − 1 = 0 が立ちます。
- 5回対称をもつ正多角形や正多面体では、黄金比が避けられません。一方で「黄金比は美の基準」という主張には裏付けが乏しいとされます。
比率の正体 ― 対角線を辺で割ると1.618…
正五角形の、隣り合わない2つの頂点を結ぶ線を対角線といいます。対角線は全部で5本あり、すべて引くと星形、つまり五芒星になります。
この対角線の長さを辺の長さで割ってみます。答えは 1.6180339887… です。黄金比そのものです。
大事なのは、これが「だいたい黄金比」ではない点です。正五角形でさえあれば、紙に描いた小さなものでも、床に敷いた大きなものでも、比はぴったり一致します。ずれる余地がありません。この値は測定の結果ではなく、形の定義から出てくる数です。
なぜ必ずそうなるのか ― 二等分線が呼ぶ相似
仕組みをたどります。辺の長さを 1、対角線の長さを x とします。
正五角形の内角は108°です。1つの頂点から2本の対角線を引くと、108°は36°ずつ3つに分かれます。ここで、2本の対角線と1本の辺がつくる細長い三角形を取り出します。頂角が36°、残り2つの角が72°の二等辺三角形で、等しい2辺が x、底辺が 1 です。
次に、72°の角を半分に分ける線を引きます。図形は2つの三角形に分かれ、底辺を含むほうが、頂角36°・底角72°という元と同じ形になります。もう一方は36°・36°・108°で、別の形です。
角度をたどると、二等分線そのものの長さと、二等分線が等辺から切り取る部分の長さは、どちらも底辺と同じ 1 になります。つまり小さい三角形は、等辺が 1、底辺が x − 1 です。元と相似なので、等辺と底辺の比が両方で等しくなります。
この方程式は、黄金比の定義そのものです。つまり正五角形の比が黄金比になるのは偶然ではなく、同じ式を図形の姿で見ているだけだといえます。同じ内容が『原論』第13巻の命題8として証明されています。2本の対角線は互いを外中比に分け、長いほうの切片が辺に等しくなる、という形です。
五芒星は、黄金比の入れ子になっている
対角線を5本すべて引くと、1本の対角線は他の2本に切られて3つに分かれます。辺を1としたとき、長さは順に 0.618…、0.382…、0.618… です。端と中央の比を取ると、ここにも 1.618…:1 が現れます。
中央の 0.382… は、五芒星の内側にできる小さな正五角形の辺の長さでもあります。もとの辺の 1/φ² にあたります。面積は長さの2乗で効くので、小さな正五角形の面積はもとの正五角形の 1/φ⁴ = 14.6% になります。
| 場所 | 辺を1としたときの値(面積のみ比) | φ での表し方 |
|---|---|---|
| 対角線の長さ | 1.6180 | φ |
| 対角線の端の部分 | 0.6180 | 1/φ |
| 対角線の中央の部分 | 0.3820 | 1/φ² |
| 内側の正五角形の面積(もとの正五角形=1) | 0.1459 | 1/φ⁴ |
内側の正五角形にまた対角線を引けば、同じ関係がそのまま繰り返されます。五芒星は、黄金比が入れ子になった図形です。
「5」という数が黄金比を呼び込む
では、なぜ5が特別なのでしょうか。結晶の世界に、答えに近い話があります。
平面や空間を同じ形で埋める格子は、何回対称でも許すわけではありません。回転が格子と両立するには、その回転を格子の基底で表した行列が整数成分になる必要があります。行列の跡(対角成分の和)は基底の取り方によらないので、2次元では 2cos(2π/n) が整数でなければなりません。計算すると、整数になるのは n = 1, 2, 3, 4, 6 のときだけです。
| n(何回対称か) | 2cos(2π/n) | 格子に許されるか |
|---|---|---|
| 3 | −1 | 許される |
| 4 | 0 | 許される |
| 5 | 0.6180… | 許されない |
| 6 | 1 | 許される |
5回対称だけが落とす値は 0.6180…、つまり 1/φ です。5が格子に入れない理由そのものが黄金比だった、ということになります。正五角形だけで平面を隙間なく敷き詰められないのも、この制限と同じ根を持ちます。
ただし「格子にできない」は「存在しない」ではありません。シェヒトマンらは1982年にアルミニウムとマンガンの合金で異常な電子回折像を観察し、1984年に論文として報告しました。その対称性は二十面体のもので、5回軸の方向から見ると10個の点が環状に並びます。繰り返さないのに秩序がある固体、のちに準結晶と呼ばれるものです。この発見は2011年のノーベル化学賞になりました。準結晶の模型に使われるペンローズ・タイルでは、2種類のひし形の枚数の比が黄金比に一致します。
俗説・誤解チェック
この種の主張は、検証に耐えていないとされます。マルコフスキーは1992年の論文で、パルテノン神殿の寸法が資料によって食い違うのは測る位置が違うためであり、数字が多いぶん都合のよい組み合わせを選べると指摘しました。ダ・ヴィンチについても、黄金比を使ったとされる素描や『聖ヒエロニムス』を検討し、伝記のどこにも黄金比を用いた記録がないことを示しています。好みを問う実験についても、追試では否定的な結果が大勢とされます。
黄金比研究所の見立て
黄金比は、探そうとすればどこにでも見つかってしまう数字です。だからこそ、本当に働いている場所を押さえておく価値があります。
正五角形は、その数少ない一つです。ここでの黄金比は、観測値でも人が決めた規格でもなく、5という対称性から出てくる必然です。正十二面体、正二十面体、ペンローズ・タイル、準結晶――5が顔を出す場面で黄金比が現れるのは、多くがこの一点に戻ってきます。
当研究所の見立ては単純です。黄金比を探すなら、まず5を探してください。
出典・参考資料
- Elements, Book XIII, Proposition 8(正五角形の対角線は互いを外中比に分ける)Euclid / D. E. Joyce, Clark University
- Metallic Phase with Long-Range Orientational Order and No Translational SymmetryD. Shechtman, I. Blech, D. Gratias, J. W. Cahn, Physical Review Letters 53, 1951 (1984)
- The Nobel Prize in Chemistry 2011 — Press release(準結晶の発見)The Royal Swedish Academy of Sciences / NobelPrize.org
- Misconceptions about the Golden RatioG. Markowsky, The College Mathematics Journal 23(1), 2–19 (1992)
- Penrose Tilings Tied up in RibbonsD. Austin, American Mathematical Society Feature Column